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50年以上前の話です。高校生時代のある日、同級生の家へ遊びに行ったら、28匹のネコと暮らしていて。友人はその中でも一番かわいい子を肩に乗せて見せてくれたのですが、そのネコと見つめ合っていたら目頭が熱くなって、涙が出てしまいました。それまでネコとの接点は少ない方でしたが、その日からネコのことが大好きになりました。
そして、大学一年生の雨の日のことです。自宅近くの電信柱の下に、見慣れない段ボール箱がありました。開けたら中には子ネコが2匹。「これも縁だな」と感じた僕は保護することにして、その子たちの写真を撮り始めました。
父親が写真家だったこともあり、家の本棚にネコの写真集が置いてあって、それを繰り返し見ては参考にしていたのを覚えています。しかし当然写真集のように撮ることは難しく、父親にコツを聞いても教えてもらえないものですから、自分で試行錯誤の毎日。気づけば数え切れないほどのネコの写真を撮っていました。
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「自分がどんな写真を撮りたいか」ではなく、ネコのことを第一に考えるようにしています。最初は遠くから撮り始めて、ネコがこちらに好奇心を持ってくれるまで、ひたすらに待ち続けることが大事。だから僕はほふく前進スタイルで、ネコになりきって相手の気持ちを探ります。小さな子どもに話しかけるときに、しゃがんで目線を合わせるのと同じですね。
- 普段からカメラやスマホを猫の近くに置いて、匂いを覚えてもらう。
- 音を怖がる子も多いので、時間をかけてシャッター音にも慣れてもらうとよい。
- 大きな三脚を見るとびっくりするので、三脚の使用はなるべく避ける。
- 猫に近づきすぎず、離れすぎず。もっともキレイに撮れる距離感を探ってみる。
- 光を味方につける。日が傾いている早朝や夕方に撮ったり、窓際で逆光ぎみに撮ったり。
- 鏡や真っ白な紙を使って光を反射してみる。
- 猫が夢中になるものを置いてみて、どう遊ぶのかを観察する。
- 構図などはあまり気にせず、とにかくたくさん撮ってみる。
- 猫の動きに合わせて「流し撮り」するのもよし。逆に、ブレた写真もスピード感があって楽しい。
- 人間の緊張は猫にも伝わってしまうので、肩の力を抜いて楽しみながら撮影する。
- おだやかな声のトーンで、猫と会話しながら撮影する。
- 無理に近づいたり、抱き上げたりしない。猫の権利を大切に。
- 食事前の猫はとても甘えてくるので、その積極的な姿を狙う。
- しっぽの表情に注目。しっぽを立てて先を少し揺らしているのは、喜んでいる証拠。
- ごはんを食べ終える直前の「舌なめずり」がシャッターチャンス!
- 食事後、顔をキレイにするために「ペロッ」となめる満足フェイスも忘れずに。
- 欲張らないことが大事!背景はできるだけシンプルに。
- 場所のおもしろさを出したいときは、猫から離れて全体図を撮影する。
- 高い場所にのぼるのは猫ならでは。下にもぐりこんで狙うのも面白い。
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1950年東京生まれ、動物写真家。
地球上のあらゆる地域をフィールドに、大自然と野生動物を撮影し続けている。
その美しく、想像力をかきたてる写真は世界的に高く評価されている。
一方で、身近なネコを約半世紀以上ライフワークとして撮り続けている。
NHK BSP4K、NHK BS「岩合光昭の世界ネコ歩き」放送中。
映画「ねことじいちゃん」(2019年)、「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族」(2021年)で監督をつとめる。本ページに使用されているネコの写真が掲載された写真集『岩合さんちのネコ兄弟 玉三郎と智太郎』(クレヴィス)が2020年11月27日発売。