1. トップ
  2. ウェブマガジン ペットと、ずっと。
  3. 統計から見る犬種の性格<前編>

統計から見る犬種の性格<前編>

「愛犬の本当の性格が知りたい」と思ったことはありませんか?
犬の性格判断システム「C-barq(シーバーク)」を使った統計で、
科学的に犬種ごとの性格の特徴が明らかになってきました。
前編では犬の性格の決まり方や犬種の性格の傾向について専門家に伺います。

お話を伺った先生菊水健史教授
(麻布大学)

麻布大学獣医学部動物応用科学科、介在動物学研究室の教授。獣医学博士。専門は動物行動学で、動物の心や未知の能力の解明を目指して研究を行う。著書は『犬のココロを読む』(岩波書店)、『日本の犬』(東京大学出版会)など。

お話を伺った先生下薗なおこ獣医師
(麻布大学)

麻布大学獣医学部獣医学科卒業。犬の行動学や飼い主とのコミュニケーションに興味を持ち、菊水教授に師事しながら、臨床獣医師として動物病院で研修中。

ライター:金子志緒

INDEX

犬の性格は
どのように決まる?

幼少期の環境や飼い主のライフスタイルなどが複雑に影響します

犬の性格には犬種の行動特性に加えて、両親犬からの遺伝や母犬の育て方、幼少期の生活環境も大きく影響します。生後6~8週齢の発達時期に、母犬やきょうだい犬から犬としての社会性を学ぶからです。
「動物の愛護及び管理に関する法律」の改正で8週齢まで親元で育てることが定められましたが、実は6~8週齢に人間社会と関わりを持つこともたいへん重要です。この時期に人間と関わる家庭的な環境で育てられると、成長後の問題行動が出にくいことがわかっています。
周囲からの影響の受け方は子犬期ほど強く、だんだん弱まっていきますが、犬と暮らし始めてからの飼い主さんとのライフスタイルも性格を決める大切な要因の一つ。「犬と飼い主は似ている」という話は本当なのです。

犬の性格診断システム
「C-barq」でわかること

飼い主の回答を統計化して、やんちゃ度や慎重度を明らかにします

犬の性格を知るために、アメリカのペンシルヴァニア大学のジェームズ・サーペル博士によって犬の性格判断システム「C-barq(シーバーク)」が開発されました。犬の日常の行動に関する質問への飼い主さんの回答を数値化し、全犬種や同一犬種と比較して客観的に行動を評価できるシステムです。アメリカや日本をはじめ9カ国で行われている信頼性の高い犬の行動解析システムと言えるでしょう。
愛着行動、恐怖性、訓練性などの基本的な13項目から甘えん坊、怖がり、そっけない……といった性格の傾向がわかり、犬に合ったライフスタイルをアドバイスできるしくみです。「C-barq」はその犬らしい行動が出る生後6カ月以降から受けられ、成長後に起こる可能性の高い問題行動の早期発見も可能です。
現在は、「C-barq」の質問項目や研究結果は公表されていますが、サイトの公開は終了しているため利用できません。

遺伝子が近い犬種を8グループに分けて解析しよう

外見は違っても性格が似ている犬種が同じグループになります

遺伝子が近い犬種をグループに分け、「C-barq」で性格判断を行なった研究があります。まずは8つのグループの犬種を紹介しましょう。姿形が違う意外な犬種同士が仲間になっているかもしれません。

①古代犬&スピッツグループ

バセンジー、柴犬、秋田犬、シベリアン・ハスキー、サモエド

②愛玩犬グループ

シー・ズー、チワワ、パグ、パピヨン、ポメラニアン、ミニチュア・ピンシャー、ブリュッセル・グリフォン、ペキニーズ

③スパニエル、セントハウンド、プードルグループ

アメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、キャバリア・キング・チャール・スパニエル、ブリタニー・スパニエル、ビーグル、ビション・フリーゼ、マルチーズ、プードル(トイ、ミニチュア、スタンダード)

④作業犬グループ

ドーベルマン・ピンシャー、ジャーマン・シェパード・ドッグ

⑤小さいテリアグループ

ケアーン・テリア、ジャック・ラッセル・テリア、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ヨークシャー・テリア

⑥サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ

イタリアン・グレーハウンド、ウィペット、ボルゾイ、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、オーストラリアン・シェパード

⑦レトリーバーグループ

ラブラドール・レトリーバー、フラットコーテッド・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、グレート・デーン、バーニーズ・マウンテン・ドッグ

⑧マスティフ系グループ

ボストン・テリア、ボクサー、ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ

写真付き8つの犬種グループ一覧はこちら(別ウィンドウでPDFが開きます)

11種類の統計グラフで見える行動特性とは?

グループによって性格がはっきり分かれる結果になりました

犬種を分けた8つのグループごとに11種類の行動特性を確認した研究があります。愛犬が属するグループのグラフを見てみましょう。

統計グラフ①:見知らぬ人への攻撃性

家族以外の人に対する攻撃をチェックした項目です。見知らぬ人が近づいたときの行動を確認しています。攻撃行動の種類は、中間レベルが「吠える」「うなる」「歯をむき出す」、高いレベルが「追いかける」「噛む」「噛もうとする」。最も攻撃性が高い結果になったのは、チワワやポメラニアンなどの「愛玩犬グループ」です。番犬のイメージが強い柴犬などの「古代犬&スピッツグループ」は4番目。最も低いのは盲導犬にも用いられるラブラドール・レトリーバーなどの「レトリーバーグループ」でした。

統計グラフ②:見知らぬ人への恐怖性

家族以外の人に対する恐怖や不安をチェックした項目です。見知らぬ人が近づいたときの行動を確認しています。恐怖性の行動の種類は、軽度〜中間レベルが「目をそらす」「尻尾を低くする」「震える」「くんくん鳴く」「うなる」など。極度が「逃げる」「ちぢこまる」「逃げようとしたり隠れようとしたりする」など。恐怖性が高かったのは、イタリアン・グレーハウンドやウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどの「サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ」です。家族や親しい人には明るく社交的な犬種でも、繊細な部分があることがうかがえます。ジャーマン・シェパード・ドッグなどの「作業犬グループ」は0であることに注目しましょう。

統計グラフ③:訓練性能

人間の指示に従う能力や理解しやすさをチェックした項目です。指示に従う頻度や新しい指示を覚える速さなどを確認しています。「オスワリ」の指示への反応などをチェックしたところ、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどの「サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ」がトップ。警察犬の代表格ジャーマン・シェパード・ドッグなどの「作業犬グループ」が続きます。ただし「①見知らぬ人への攻撃性」「②見知らぬ人への恐怖性」のグラフと比べて、グループごとに大きな差がないことがわかります。いずれのグループもしつけやトレーニングに十分応えてくれます。

統計グラフ④:分離不安

家族が離れた時の様子をチェックした項目です。家族が出かけようとしたときの行動や留守番中の行動を確認しています。ひとりになると鳴いたり震えたりと不安を感じるのは、プードルやマルチーズなどの「スパニエル、セントハウンド、プードルグループ」でした。チワワやシー・ズーなどの「愛玩犬グループ」は2番目。家族の近くで過ごすことを好む犬種は、分離不安に注意したほうがよさそうです。自立心が強い柴犬やシベリアン・ハスキーなどの「古代犬&スピッツグループ」は低めですが、それでも0.4を超えています。

統計グラフ⑤:興奮性

いくつかのシチュエーションで興奮する度合いをチェックした項目です。家族の帰宅時や来客時、散歩に出かける直前などの行動を確認しています。犬によってうれしい出来事と嫌な出来事に分かれるかもしれません。軽度〜中間レベルが、「目新しい物に向かって行く」「警戒したり吠えたりする」、極度は「ささいな出来事にも過度に吠え立てる」などです。ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどの「サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ」が最も高く、ジャーマン・シェパード・ドッグなどの「作業犬グループ」が特に低い結果になりました。

統計グラフ⑥:見知らぬ物や音への恐怖性

日常で見たり聞いたりする機会の少ない物音に対する恐怖や不安をチェックした項目です。道路に落ちていた物、雷や花火などの音への反応を確認しています。恐怖性の行動の種類は「②見知らぬ人への恐怖性」と同じで、軽度〜中間レベルが「目をそらす」「震える」など、極度が「逃げる」「ちぢこまる」などです。いずれのグループも「⑤興奮性」と同じ結果で、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークなどの「サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ」が高く、ジャーマン・シェパード・ドッグがなどの「作業犬グループ」が低いことがわかりました。

統計グラフ⑦:家族への攻撃性

家族に対する攻撃をチェックした項目です。家族が叱ったときやおもちゃを取ろうとした時の行動を確認しています。攻撃行動の種類は「①見知らぬ人への攻撃性」と同じで、中間レベルが「吠える」「うなる」など、高いレベルが「追いかける」「噛む」などです。小さくてかわいいイメージのあるチワワなどの「愛玩犬グループ」、マルチーズなどの「スパニエル、セントハウンド、プードルグループ」、ヨークシャー・テリアやジャック・ラッセル・テリアがなどの「小さいテリアグループ」が上位を占めました。

統計グラフ⑧:見知らぬ犬への恐怖性

会う機会の少ない犬への恐怖や不安をチェックした項目です。見知らぬ犬や自分より小さい犬が接近してきたときの行動を確認しています。恐怖性の行動の種類は「②見知らぬ人への恐怖性」と同じで、軽度〜中間レベルが「目をそらす」など、極度が「逃げる」など。グラフで表した結果も「②見知らぬ人への恐怖性」とほぼ同じで、イタリアン・グレーハウンドなどの「サイトハウンド、牧羊犬、牧畜犬グループ」が目立ちます。ジャーマン・シェパード・ドッグなどの「作業犬グループ」は0でした。

統計グラフ⑨:見知らぬ犬への攻撃性

会う機会の少ない犬への攻撃をチェックした項目です。見知らぬ犬や自分より小さい犬が接近してきたときの行動を確認しています。攻撃行動の種類は「①見知らぬ人への攻撃性」と同じで、中間レベルが「吠える」など、高いレベルが「噛む」などです。ヨークシャー・テリアなどの「小さいテリアグループ」が最も高く、次いで柴犬などの「古代犬&スピッツグループ」も目立ちます。フレンチ・ブルドッグなどの「マスティフ系グループ」をはじめとするグループはほぼ横並びですが、ラブラドール・レトリーバーなどの「レトリーバーグループ」はかなり低い数値です。

統計グラフ⑩:愛着行動

家族に対するふれあい方をチェックした項目です。家族がくつろいでいるときや気を引くときの行動を確認しています。家族にくっついて歩いたり注意を引こうとして鼻でつついたりする行動が特徴です。ジャーマン・シェパード・ドッグなどの「作業犬グループ」と、ラブラドール・レトリーバーなどの「レトリーバーグループ」がどちらも高い数値を示しています。柴犬などの「古代犬&スピッツグループ」は目立って低い傾向にあり、適度な距離感で家族と暮らしていることがうかがえます。

統計グラフ⑪:家の前を通る人への攻撃性

自宅の前を通る人への攻撃をチェックした項目です。見知らぬ通行人への攻撃をチェックした項目です。攻撃行動の種類は「①見知らぬ人への攻撃性」と同じで、中間レベルが「吠える」など、高いレベルが「噛む」などで、番犬のような行動ともいえます。目立って高かったのはチワワなどの「愛玩犬グループ」。ラブラドール・レトリーバーなどの「レトリーバーグループ」が最も低く、フレンチ・ブルドッグなどの「マスティフ系グループ」も同様の結果です。

グループによって行動に違いが出ていることがわかります。この結果が性格の違いになっています。たとえば「見知らぬ人への攻撃性」のグラフが低いグループは穏やかで温厚な性格で、逆に高いグループは警戒心の強い頼もしい番犬と言えるでしょう。愛着行動のグラフが高いグループは甘えん坊で、低いグループはそっけない性格となります。
最初にお伝えしたとおり、犬の性格には犬種の傾向に加えて飼い主さんのライフスタイルも影響します。後編では犬種によって性格が違う理由や暮らしのアドバイスを紹介しましょう。
統計から見る犬種の性格 <後編>

参考資料:https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/yourei/rep07.pdf