1. トップ
  2. ウェブマガジン ペットと、ずっと。
  3. 愛猫が吐いた!吐いたモノ別飼い主がとるべき行動

愛猫が吐いた!吐いたモノ別
飼い主がとるべき行動

もしも愛猫が急に吐いたら心配になってしまいますよね。
すぐに吐いたモノを確認してみたらいつもの毛玉だったりして、
ようすを見るべきか病院へ連れて行くべきか判断に迷ってしまうなんてことありませんか。
そんな、猫の吐いたモノ別飼い主がとるべき行動について紹介します。

監修の先生内田 恵子 獣医師(元苅谷動物病院グループ統括院長)

小動物臨床に35年間従事した後、現在は動物病院運営のためのアドバイスを開始している。JAHA内科認定医、JAHAこいぬこねこの教育アドバイザーであり、動物病院で動物の入院中ストレスや診察中ストレスを軽減し、病院で問題行動を作らないような技量を広めるため活動中。

INDEX

猫は吐きやすい動物

猫は、健康面に問題がなくても吐くことがあります。例えば毛玉です。猫の舌には細かいトゲが生えていて、毛づくろいをしている間、そのトゲに被毛を絡め飲み込んでしまいます。被毛は便と一緒に排出されることもありますが、胃に残った被毛がたまり毛玉になると不快感を感じ吐き出そうとします。また、食道筋層の構造上でも、犬の食道筋層がほぼ全域、意図的に動かすことのできる横紋筋(おうもうきん)でできているのに対し、猫の場合は上の2/3が横紋筋、下の1/3が意図的には動かせない平滑筋(へいかつきん)でできているので、消化に時間がかかり食道にたまりやすいため、フードの吐き戻しが起きやすいといわれています。

猫が吐くときってどんなとき?

それでは、そのほかに猫が吐く原因にはどのようなものがあるのでしょうか。大きく分けて次の原因を考えることができます。

吐くときに考えられる原因

  1. 1.胃にたまった毛玉の不快感
  2. 2.食事の問題(異物を食べた、早食いした、急な食事内容の変更)
  3. 3.中毒性物質や毒物を摂取した
  4. 4.糖尿病や副腎皮質機能低下症、腎不全・肝不全、甲状腺機能亢進症などの代謝性疾患
  5. 5.胃のトラブル(胃炎・胃潰瘍・胃捻転、異物や胃の幽門部における通過障害※1)
  6. 6.小腸のトラブル(寄生虫や腸炎、腸捻転、異物、腸閉塞など)
  7. 7.腹腔内のトラブル(腹膜炎・腫瘍・膵炎・臓器の腫大など)
  8. 8.食道のトラブル(食道狭窄・拡張、腫瘍、食道炎、異物など)
  9. 9.ウイルス性の伝染病

※1:幽門部という十二指腸へ流れる胃の出口が何らかの原因によって狭くなったり塞がれてしまうこと

他にもストレスや、胃の運動能力の低下で十二指腸から胆汁などの消化液が逆流し、胃のむかつきから吐き気をもよおして吐くこともあります。

同じ吐くでも違う「嘔吐」と「吐出」

愛猫のいきおいよくフードを食べた直後に吐く、お腹を動かしゲーゲーして毛玉を吐く、一見同じように見える「吐く」ですが、獣医学ではしくみの異なる「嘔吐(おうと)」と「吐出(としゅつ)」に区別します。嘔吐と吐出では、吐く原因となるものが異なるため、症状を見定める際に重要なポイントになります。それでは、「嘔吐」と「吐出」をそれぞれ解説しましょう。

猫の消化器官 口、舌、咽頭、食堂、横隔膜、肝臓、胆嚢、十二指腸、結腸、肛門、小腸、胃、脾臓、盲腸 吐出:口に入れたものが胃に到達する前に吐く 嘔吐:胃に到達した後、消化器官内の炎症や何らかのトラブルで吐く

嘔吐(おうと)

嘔吐は、脳にある嘔吐中枢がなんらかの原因で刺激され、脳から神経系統を通じて「吐く」信号を発信し、胃や十二指腸の内容物が口から吐き出されることをいう。吐き気を催したあと、横隔膜が蠕動(ぜんどう)しゲーゲーと吐きそうな動作をしてから、下向きに吐き出す。吐き出されたモノは消化が始まっている状態。

吐出(としゅつ)

吐出は、神経系や筋肉などの異常、また食道に腫瘍や異物があったりなどのトラブルで、食べたものが胃に到達する前に食道から逆流し吐き出されることをいう。吐き出されたモノは未消化の状態でもう一度食べ直すこともある。頻繁に未消化の食べものを吐き出すようなら吐出の可能性が高い。前に飛ばすような吐き方が特徴。食道拡張、重症筋無力症、若齢の心臓の血管の奇形など、なんらかの理由で食道の運動機能が著しく低下したときに吐出することがある。

つまり、食べたものや飲んだものが胃に入る前に排出されることを「吐出」、食べたものや飲んだものが胃に入ってから排出されることを「嘔吐」といっていいでしょう。このように嘔吐と吐出では診るべき点も変わります。猫の吐く前ぶれを見つけたら、吐く前・吐き方・吐いた後のようすを注意深く観察し受診に備えましょう。猫が吐く前には以下のような前兆が見られます。

猫の吐く前ぶれ

  • 頭を下げる
  • よだれが出る
  • 元気がない
  • 具合が悪そうに震えている
  • 隠れて出てこない
  • 横隔膜が収縮している
  • 口を開いて舌を突き出し吐き出そうとしている
  • 咳をしている

猫が吐いたあと

吐いた直後は、水やフードを与えるのは控えましょう。
胃や腸にトラブルが起きているところへ与えると、再び胃腸運動を起こし状態がさらに悪化する可能性があります。吐いた後のようすを見て、回復しないようであれば早めに動物病院を受診してかかりつけ医に相談しましょう。

吐いたときに飼い主がとるべき行動

基本的には飼い主さんが日頃と違う異変を感じたら動物病院を受診するのが安心ですが、以下のチェックリストの吐き方を参考に、一つでも当てはまったら、なるべく早く動物病院へ連れていきましょう。

急いで受診した方がよいケース

  • 激しく吐いている
  • 一度に何回も吐く
  • 吐いた後も元気と食欲がない状態続いている
  • 吐く動作を頻繁にしていて元気がない
  • 吐いたものに血が多く混じっている
  • 吐いて下痢もしている
  • 脱水して皮膚に張りがなく目がくぼむ
  • 毎日1回でも数日以上嘔吐が続いている
  • 吐いていて徐々にやせてきた
  • 吐しゃ物の中に虫がいた
  • 思い当たる誤飲・誤食の可能性があり、中毒の可能性がある

動物病院を受診するときは、少なくとも以下の情報を伝えられるよう観察しておくと適切な診断を受ける上で役立ちます。

受診時に獣医師へ伝えたい情報

  • 吐いたのは1回か?複数回か?いつから始まったか
  • 最後に食べた食事からどのくらい時間が経っているか
  • どんな吐き方をしていたか
  • どんな吐しゃ物だったか
  • 吐いたあとのようすはどうか
  • 下痢や熱などの他の症状はあるか

さらに、吐いた実物を持参するか、難しければ写真や動画を撮影して獣医師に見せるとよいでしょう。また持参するときは、テイッシュなどでくるむと吐しゃ物は吸われてしまうため、アルミホイルやラップなどを利用するとよいでしょう。

主な吐いたモノの解説と動物病院を受診する緊急度の目安

それでは最後に、猫の主な吐しゃ物にはどのようなものがあるか解説します。受診の緊急度の参考にしてください。

透明な液体

主に直前に飲んだ水や胃液などが逆流したものと考えられる。ストレスによる胃のむかつきや空腹時による胃酸過多が原因によるものが多い。多くはすぐに収まるが、何度も繰り返し吐くのが続くと脱水症状になることも。続くようなら早めに受診しましょう。

黄色い泡

空腹が過ぎると胃酸過多で胆汁混じりの黄色い液体を吐くことがある。ごはんの量は変えずに与える間隔時間や頻度の見直しなど、空腹にさせない工夫をすれば問題なく落ち着くことが多い。ただし、肝炎や腎臓病の初期症状として黄色い液体を吐くこともあるので続くようなら早めに受診しましょう。

緑色・緑色の泡

緑色の液体や泡を吐いたときは、膵臓の炎症や胆汁が多量に分泌されたときに出る色です。誤って異物を飲み込んだときなど、その異物を消化しようと胆汁が大量に分泌されることがあります。異物が腸につまり腸閉塞を起こした場合や、何度も嘔吐を繰り返している場合も緑色の液体を吐くことがあります。特に腸閉塞は短時間で命を落とすこともあるため、至急動物病院へ連れていきましょう。

毛玉

胃の中に毛玉がたまり不快感によって定期的に吐き出しています。短毛種より長毛種の方が絡め取る毛量が多いので吐く回数や量が多いでしょう。ブラッシングを増やしたり毛玉を排泄しやすいフードなどに切り替えることで吐く回数を減らすことができます。

未消化フード

早食いや勢いよく一度にたくさんの量を飲み込んだりすると、胃まで到着する前に吐き出してしまったり(吐出)、胃の消化が追いつかず交通渋滞がおきて、やや消化された状態で吐き戻してしまうこともある。吐き出されたフードの消化状況から、どの器官で異常が起きたのか推測しやすい。半分ほど消化が進んでいれば胃、ほぼ消化されている場合は十二指腸や腸が考えられる。ゆっくり食べているのに消化途中で吐き出す場合は、なんらかの原因で消化器官の機能が低下している場合も。

ヒモ類や布など、食べものではない異物

誤飲などで異物を飲み込んでしまったときは、体内から排出するまで嘔吐をくり返したり、何も出てこないのに吐くしぐさをくり返すことがあります。すべて吐き出せれば回復することもありますが、体内の消化器官を傷つけていることも。気づかれず異物が体内に残ったまま、モノによっては腸閉塞を起こす場合もあるので、思い当たる節があれば早めに受診して検査を受けるのがいいでしょう。

寄生虫

吐しゃ物の中に、動くものを見かけたら寄生虫の可能性が大きいです。多くの場合、寄生虫は便にも混じって排出されるので、便にもいないか確認してみてください。寄生虫を見かけたら写真や動画などを撮影し、すぐに病院へ連れていきましょう。多頭飼いの場合は、同居動物すべてに駆虫しましょう。

ピンク色の液体

ピンク色から赤い色をした液体は、口の中の出血、胃や腸から出血している可能性があります。出血性胃腸炎や十二指腸炎の場合もあります。もしも、鼻からも同じピンク色のような血が出たら心臓性肺水腫の可能性もあるので、できるだけ早く受診しましょう。

赤い液体〜赤黒い液体

鮮やかな赤い液体の場合は、体内からの出血の可能性が高く、胃腸や肺などのトラブルが考えられます。赤黒い場合は、消化器官内にできた腫瘍の破裂、もしくは呼吸困難を起こす心臓性肺水腫などの重篤なケースが多く、赤い血を吐き出したら至急動物病院へ連れていきましょう。また、液体以外にも、胃ガンの場合、赤黒い血の塊を吐き出すこともあります。

吐くことは、多くの疾病や健康になんらかのトラブルがあったときに現れる代表的なサインといってもよいでしょう。日頃からよく観察し、飼い主さんが「いつもと違う」「なにかおかしい」と感じたら、緊急度に関わらず、すぐにかかりつけ医に相談するようにしましょう。