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猫の毛色と性格<前編>

猫は個性豊かな性格の持ち主です。
「猫種や毛色によって性格が違う」といわれることもあり、
実感している飼い主さんも多いのではないでしょうか。
猫の毛色と性格についての科学的な研究が少しずつ進んでいます。
前編では猫の歴史や毛色の成り立ちを専門家に伺いました。

お話を伺った先生加隈 良枝 准教授
(帝京科学大学)

帝京科学大学アニマルサイエンス学科准教授。1995年東京農工大学農学部環境・資源学科卒業。2002年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。同大学院博士課程在学中に英国エジンバラ大学にて大学院応用動物行動学および動物福祉に関する修士課程を修了。帝京科学大学アニマルサイエンス学科講師を経て、2013年から現職。専門分野は、応用動物行動学、動物人間関係学、動物福祉。

INDEX

遺伝子の研究から見る
猫の歴史

リビアヤマネコが人の近くに住み着いてイエネコになりました

猫と人間の共生が始まったのは、約1万年前のエジプトです。2007年に発表された猫の遺伝子の研究から、現在のイエネコの祖先はリビアヤマネコということも明らかになりました。リビアヤマネコは乾燥帯の林や灌木のある地域に適応し、自然界ではカモフラージュになるアグーチ(1本の毛に濃淡の縞が入りシマ柄などになる)の毛色が多数を占めていたと考えられています。

共生のきっかけは、人家近くの倉など、穀物の貯蔵場所周辺で穀物を狙うネズミを追ってリビアヤマネコが町や村に来るようになったこと。中でも人慣れしやすいタイプがペットとしてもかわいがられ、イエネコとなりました。

猫の種類・毛色の
バリエーションが増えた理由

安全な人の近くで繁殖のサイクルが早まり、姿形の違いが現れました

猫は人間の近くで暮らすことで食事が保障されて栄養状態が良くなり、繁殖のサイクルが早まっていきます。その結果、突然変異の猫が生まれやすくなり、毛色や姿形のレパートリーが増加。自然界では目立ちすぎて生き残れなかった単色(白や黒など)や二色・三色(ブチや三毛など)の猫も子孫を残せるようになりました。

古来、人間は犬を行動や能力で選抜し、猟犬や牧畜犬などの作業ができる犬種を生み出しましたが、猫には何よりも「見た目のかわいさ」を求めました。だからこそ毛色、毛質、毛種、顔立ちなどに特徴のある個性的な猫が増えていったのです。

世界各地へ広がって
短毛と長毛が生まれた

猫は住み着いた地域の気候に適した被毛に変わっていきました

おおよそ4000年前から人間がヨーロッパやアジアへ移動する際にイエネコを伴っていき、世界各地に猫の生息地が広まりました。猫は移動した地域に適応し、暑い地域では短毛種が、寒い地域では長毛種が増えていきました。

近代の欧米で、これらの土着の雑種をブリーディングによって固定化し、さまざまな猫種を生み出しました。外見の違いで選ばれていくうちに、気質にも多少の違いが出現します。たとえば短毛種のアビシニアンやシャムなどは比較的活発な性格です。一方、長毛種のペルシャなどは、あまり動きたがらずアクティビティは低めの傾向があります。

「毛色で性格が違う」のは本当?

研究によって毛色と攻撃性の関係が明らかになりました

猫の毛色と性格に関する研究は近年始まったばかりです。調査の手法は大きく分けて3種類あります。

  1. 飼い主に愛猫の毛色や行動のアンケートを実施する
  2. 同じ毛色や猫種を集めて行動を観察する
  3. 獣医師やハンドラーに猫の毛色や行動のアンケートを実施する

なるべく客観的なデータを集めるために考案された手法ですが、それぞれの結果が異なることもあり、現在も研究が続いています。

猫に関する毛色と性格の研究は犬ほど進んでいないので、これから明らかになっていくことが多いのですが、現在までにわかっている毛色と特徴を紹介しましょう。14種類の毛色の調査※では、雑種と純血種の猫に共通した傾向が見られているようです。
※出典:J. Wilhelmy et al. / Journal of Veterinary Behavior 13 (2016) 80-87

アグーチ(キジトラ、サバトラ、茶トラなど)

一本の毛を複数の色の帯に分ける遺伝子によって、毛の先端から根元まで濃薄の縞模様が現れるアグーチ。イエネコの祖先となったリビアヤマネコに似ている毛色で、野性味の強い性格が見られます。特に全身に茶色の模様が入っている毛色ほどその傾向が見られ、活動性や攻撃性が高い傾向にあります。

単色(白、黒など)

アグーチを抑える遺伝子によって茶色がなく、1色のみの毛色です。アグーチの特徴に対し活動性や攻撃性は低く、おとなしい傾向にあります。 毛色を黒くするメラニンの原料となるトリプトファンは、神経伝達物質のセロトニンの原料にもなります。セロトニンが不足すると不安が強くなったり攻撃性が高くなったりしますが、トリプトファンを多くもっている黒はセロトニンをたくさん作ることができるので、不安感や攻撃性は下がるのでは、という説も提唱されています。

二色(ブチ、ポイント、バイカラーなど)

ブチ模様や、体の先端に色がつく毛色です。性格について詳しいことはわかっていませんが、アグーチよりもおとなしい傾向があります。

三色(三毛など)

三毛は、黒・白・茶色(オレンジ)の3つの毛色の遺伝子によって色が発現します。その中の茶色(オレンジ)の毛色を持つ遺伝子は、メスの性染色体上にのみ存在するため、メスのみが茶色とそれ以外の色を同時にもつことができ、三毛猫の多くはメスです。まれに染色体異常でオスの三毛が生まれることもありますが、正常であればオスの三毛は生まれません。そのため三毛では毛色による特性よりもオスらしさメスらしさなどの性別による行動特性のほうが目立ちます。アクティビティが低く、ややおとなしい傾向にあり、体格も小さめなタイプが多いでしょう。

野生的な毛色の代表格ベンガル

特性が毛色にあらわれているベンガルとラグドールを比較してみましょう

ベンガルはヤマネコとの交配により生まれ、野生の特徴を残した猫種の代表格で、短毛でアグーチの縞柄や斑紋の毛色をもちます。一方、長毛で二色のバイカラーやポイントが多い家庭向けに改良されてきたおだやかな猫種のラグドール。この2つの猫種の行動を比較したグラフを見ればその差は歴然です。
※レベルの数値の高さは、その行動特性の現れやすさを示しています。

出典:Hart BL and Hart LA. Your Ideal Cat: Insights into Breed and Gender Differences in Cat Behavior. (2013) Purdue University Press. P73 & 101.

祖先のリビアヤマネコからさまざまな毛色や模様が誕生し、その多様な魅力に多くの人間が惹きつけられてきました。では性格は無関係かといえば、そうとはいい切れないようです。後編では猫の性格の決まり方や、人気猫種の行動特性、家庭に合う猫を見つける方法などを紹介しましょう。

次の記事:猫の毛色と性格 <後編>