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犬が吠える理由 Vol.1
~なぜ犬が吠えるのか考えてみよう~

犬が吠えるのはあたりまえのこと。
しかし、吠えは周囲の迷惑になることも多く、問題行動として飼い主さんを悩ます原因になっているのも確かです。
では、犬はなぜ吠えるのでしょう? その理由がわかれば、困った犬の吠えを減らせるかもしれません。
今回は、そんな「犬の吠える理由」について、JAHA認定家庭犬しつけインストラクターの矢崎潤さんにお話を伺いました。

お話を伺った方矢崎 潤さん
(JAHA認定家庭犬しつけインストラクター)

公益社団法人 JAHA(日本動物病院協会)認定家庭犬しつけインストラクター 同協会インストラクター養成講座委員会アドバイザー/公益社団法人 日本愛玩動物協会講師/日本獣医生命科学大学 非常勤講師/帝京科学大学 非常勤講師
「ほめるしつけ」がポリシー。犬の行動学と学習理論、動物福祉に基づくトレーニングスタイルは、わかりやすく、安全かつ効果的と多くの信頼を得ており、環境省をはじめ、動物行政関係者向けの研修会の講師、民間愛護団体でのセミナー等でも指導を続けている。著書に「幸せな子犬の育て方」大泉書店、「犬のしつけきちんとブック」シリーズ(トイレ、吠え、留守番、咬みグセ)高橋書店などがある。

ライター:山ノ上ゆき子

INDEX

犬は人間のために「吠える」ことを
求められてきた動物です

犬は、人間のパートナーとして、狩猟や牧畜などの仕事をするために多彩な種類が誕生してきた動物です。オリジナルをオオカミだとするならば、犬は人間のために役立つ部分の能力を引き上げられ、現在の優れた動物へと進化していったのです。その代表的な特長のひとつに「吠える」ことがあげられます。つまり犬はオオカミよりも、よく吠えるという能力をプラスされた動物なのです。特に人間に知らせる・侵入者を追い払う・獲物を追い詰めるなどの仕事を担う犬は、吠えやすくなっています。そんな犬たちにとって、もともとの仕事に合った性質や習性で吠えることは、とても自然なことなのです。つまり「犬を飼う」とは、「吠える生き物と暮らすこと」だということです。なかには、吠えづらい犬種もありますが、基本的に犬は「吠えやすい動物」であることを、まずは理解しましょう。

「無駄吠え」は、
犬にとっては無駄じゃなく
すべてに理由がある

もともと犬にとって無駄な吠えはありません。さらにいえば、人間にとっても、犬の吠えはどれも無駄じゃなかったはずなのです。たとえば、海外の部族の村には、今でも必ず犬がいて、外部の侵入者を知らせたり、追い払ったりする番犬的な吠え、音や匂いなどのいつもと違う刺激を感じて何かの前ぶれだと警戒する吠えが人間の生活に必要とされています。そんな犬がたまたま、日本のオートロックのマンションに住んでいて、セキュリティ対策が万全で、「番犬する必要がないのに吠えるのは無駄だ」と思うのは、人間側の都合が変わっただけかもしれません。犬の立場になると、とても自然なことなのです。しかし、住宅密集地や集合住宅などでの大きな吠え声や連続した吠えは、周囲の住民に迷惑になってしまいます。「周囲の迷惑になっているのでは?」と感じる吠えがあるのなら、対策が必要です。まずは、自分の犬がどんなシーンで吠えやすいのか、犬種の特性から考えてみましょう。

吠えやすい犬種とそのルーツ

実は日本で飼育されている6割以上の犬種は、人間の役に立つように吠える能力が高められた“よく吠える”タイプです。大きく分けて下記の4タイプがあり、吠えるシーンにも違いがあります。

愛玩犬グループ

小型犬は、機敏性が高くチョコチョコついて回る特徴があります。その昔、ヨーロッパの上流階級の女性たちの間で小型犬を愛玩目的で飼うことが流行したのですが、可愛がられるだけでなく、寝室に誰かが忍び込もうとした時などに、その危機を護衛の者に吠えて知らせる「ベル・ドッグ」という役目がありました。そのため、ささいな物音にでもすごく反応し、吠えるよう能力が高められています。石畳の上を歩く不審な忍び足にも吠える能力があるので、現代のマンションの廊下を歩く人の足音に吠えるのも当然かもしれません。パピヨンをはじめ、ポメラニアンやチワワなど小型犬種のほとんどがこのタイプです。
ただし、小型犬でもあまり吠えない犬種もあります。それは、鼻ペチャな顔の短頭犬種で、フレンチ・ブルドッグ、パグ、シーズー、ペキニーズなどです。

牧畜犬グループ

牛や羊などの群れをまとめたり、移動させたりする仕事を担うため、吠えながら仕事をしてきた犬たちです。頭が良くて、すごく激しい運動を行うため、タフなのですが、群れに目を配る繊細さがあります。その代表格がボーダー・コリーで、追いかける動作や視線などだけでなく、時に吠えることも使って羊の群れをコントロールします。また、コリーやシェットランド・シープドッグなども吠えやすい傾向にあります。ウェルシュ・コーギーは、キャトルドッグとよばれ、自分のカラダの何10倍もある大きな牛を足元で、大きな声で吠えて、威嚇しながら動かします。そのため、気が強くて繊細な面があります。これらの犬種は、これらの犬種は、ちょっとしたことですごく吠えやすく、うれしくなったときや、威嚇するときでも吠えやすい傾向があるタイプです。

狩猟犬グループ

ジャック・ラッセル・テリア、ヨークシャー・テリアなどのテリア系や、ビーグル、ダックスフンドなどがこのグループです。ビーグルは、野ウサギを追い詰め、人に知らせるために、遠くまで響く吠え声を持つのが特徴です。巣穴に潜むアナグマを追い詰めるために誕生したダックスフンドは、深い土の中でも自分の居場所が人に届くよう野太い声を持っています。また、愛玩犬として知られるヨークシャー・テリアなどのテリア種も、ネズミなどの小動物を捕るために使われていた歴史があり、動くものや物音によく反応し吠えやすい傾向があります。

日本犬グループ

柴などの日本犬は、警戒心があり、ささいな変化にも反応して吠えるので、よく番犬として使われていました。そんな日本犬は、とても省エネなタイプが多く、無駄な動きや無駄なことを年々しなくなる傾向があるので、大人になると必要な時しか動かないことが多くなります。比較的小回りの利く万能なタイプなので、何でも仕事をこなしてきた犬種だといえるでしょう。 西洋の犬と違い、そんな日本犬を日本人は、家族だけになつき見知らぬ者には警戒する番犬として育ててきた歴史があります。日本犬たちは比較的吠えをコントロールしやすく、吠えやすい傾向は少ないのですが、子犬の頃からさまざまな人や環境に慣れさせておかないと、警戒心や恐怖心が先に立ち、他人や他犬に過剰に吠えるようになる傾向があります。

環境や生活を
ちょっと変えるだけで
軽減できる吠えがある

吠えやすいタイプの犬の吠えは、減らせないのでしょうか? いいえ、吠えることをゼロにすることは難しくても、犬の置かれている環境や生活を改善することで、減らすことができます。あまり吠えないでほしいと願うのならば、まずは愛犬のニーズが満たされているかチェックしましょう。

犬のニーズのチェックリスト

  • ①快適な生活空間がある
  • ②バランスのとれた食事が与えられている
  • ③健康管理が行われ、身体が健康である
  • ④エネルギーを発散させ、運動欲求を満たしている
  • ⑤社会的なかかわりを行っている

上記の中で特に吠えの予防に重要なのは④と⑤です。⑤は具体的にいうと、家族が犬と関わる時間を充分に持ち他人や他犬ともコミュニケーションを持つチャンスを作るということです。 ④⑤が足りないと、肉体的な部分と精神的な部分が満たされない状態になり、吠えやすくなるので気をつけてください。しかし、雨の日が続いたり、飼い主さんが忙しくて散歩に行けない日があったりすると、エネルギーをもてあまし、吠える傾向が強くなります。そんな時は、おもちゃなどを使って咬んだり追いかけたりする犬の本能を満足させる遊びをいっしょに楽しむ工夫をしましょう。ちなみに散歩の適性量は、個体差があるので、犬種に関わらずその子に必要な量を知っておく必要があります。気候のいい時期のお散歩で、帰宅した犬が水をのみ静かに休むようになるのが適当です。帰宅後まだ家で動き回っているなら、散歩量が足りないと思ってください。
また限られた環境だけで育てられた犬は、経験不足から警戒による吠えが多くなります。外の世界はもちろん、家に入ってくる刺激にも敏感になるので、毎日のお散歩にいく際には、犬の好むオヤツなどを持って出かけ、さまざまな人からご褒美を与えてもらったり、他犬と上手にすれ違うことができたら飼い主さんからオヤツを与えて褒めてあげるなど、少しずつ人や環境に慣らしましょう。少しずつ慣らしていくことが吠えを予防するためには大切です。また、平日はずっとお留守番なのに、休日は一転してお出かけ三昧など、急な変化を与えることは怖がりな犬の吠えを助長しますので注意が必要です。
具体的な吠えの原因や対策については、Vol.2 Vol.3で紹介します。