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犬のアレルギーのしくみと原因

愛犬がかゆがる姿を見て、「もしかしてアレルギー?」と心配になったことはありませんか。
実はアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症する犬が増えています。
若い年齢でも高齢になってから発症することもあるため、今は健康でも油断は禁物。
前編ではアレルギーのしくみと原因を確認しましょう。

監修の先生伊從 慶太(いより けいた)獣医師

獣医師・獣医学博士/アジア獣医皮膚科専門医
株式会社VDTの最高技術責任者であり、どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科の主任獣医師を務める。獣医師や飼い主向けのセミナーや書籍の執筆も行なう。
VDT https://www.vdt.co.jp/
どうぶつの皮膚科・耳科・アレルギー科 https://magazine.vdt.co.jp/

ライター:金子 志緒

INDEX

アレルギーが起きるしくみ

まずはアレルギーのしくみを知っておきましょう。生き物には、体内に侵入する異物(花粉、ハウスダスト、カビ、ウイルスなどのアレルゲン)から身を守る「免疫システム」があります。異物が体内に侵入すると、免疫システムが反応して抗体を作ります。抗体にはさまざまな種類がありますが、アレルギー体質では特に免疫グロブリンE(IgE)抗体を産生しやすくなります。再び異物が侵入してきた際にIgE抗体と結合することで種々のアレルギー反応(かゆみや炎症など)が起こります。アレルギーはとても複雑で、他にもさまざまな因子が関与します。

アレルギーは「かゆみ」から始まります

アレルギーは皮膚のかゆみから始まり、耳や目、消化器に不調が現れることもあります。1週間程度続いたり、季節やイベントによって良悪を繰り返したりする場合は、速やかに動物病院を受診しましょう。

アレルギーで起きる主な5つの症状

  • 体をかゆがる・よくなめる
  • 皮膚が赤くなる
  • 耳がかゆい・汚れやすい
  • 目が赤くなる
  • ウンチがゆるくなる

犬の三大アレルギーは
「アトピー」「食物」「ノミ」

犬の三大アレルギーと呼ばれる疾患は、「アトピー性皮膚炎」「食物アレルギー」「ノミアレルギー」。その中でも環境中に存在するアレルゲンが関与するアトピー性皮膚炎が最も多く、次いで食物アレルギーが発生しやすい傾向があります。ノミアレルギーは季節や地域によって発症頻度が変わります。いずれも主な症状は「かゆみ」です。
人の場合、アレルギーを1つ発症すると、次々に増えていく「アレルギー・マーチ」が起きます(例えば赤ちゃんのときにアトピーになり、成長すると喘息を起こすなど)。犬は研究段階ですが、アレルギーを併発しているケースが多いことがわかっています。特にアトピー性皮膚炎と食物アレルギーは併発する頻度が高いようです。
三大アレルギーとの関連性はありませんが、まれにワクチンや薬によってアレルギーを起こす犬もいます。症例は少ないものの症状が強く出る傾向があり、命の危険があるアナフィラキシーを起こすことも。接種や処方の前にかかりつけの動物病院に相談しましょう。

アレルギーの原因は
「免疫」と「肌」の異常

アレルギーを発症する原因の一つは、前述した抗体産生などの「免疫システム」に異常があることですが、それだけでアレルギーが起きるとは限りません。
アレルゲンが皮膚から侵入する経路もアレルギーの発症に重要です。いわゆる「肌のバリア」が弱いと、さまざまなアレルゲンが容易に侵入してしまい、アレルギーを起こしやすくなります。症状が出てかゆくなると皮膚を引っかくので、さらに肌のバリアが壊れてアレルゲンの侵入を助長します。

肌のバリアの構造と異常が起きる原因

肌のバリアはさまざまなアレルギーの発症に関わります。構造と異常が起きる原因を確認しておきましょう。

皮膚の表面にある角質が肌のバリア

肌のバリアで重要なのは、皮膚の表面にある「角質」です。角質は非常に強固な構造を有して異物の侵入を防いでおり、その構造を支える重要なタンパク質としてフィラグリンが挙げられます。角質の構造はレンガの壁に似ています。角層細胞がレンガのように積み重なり、その間に細胞間脂質と呼ばれる成分がコンクリートのように隙間を埋めています。細胞間脂質の代表にはセラミドが挙げられ、セラミドは水分の保持にも貢献しています。

アレルギーの犬は肌のバリアが弱い傾向があります

角層細胞は古くなるとはがれ落ちますが、その際にフィラグリンは分解されて、水分を保持するための「天然保湿因子」に変わります。アトピー性皮膚炎の人の場合、フィラグリンを作る遺伝子に異常があり、セラミドの量も健常人より少ないことがわかっています。従って、アトピーの人は肌が乾燥しやすい傾向があります。
アトピー性皮膚炎の犬も、健康な犬に比べて皮膚から水分が蒸発する量が多く、フィラグリンやセラミドの異常が指摘されています。

食物を含むあらゆるアレルゲンが皮膚から入ります

食物アレルゲンは腸から認識されると考えられてきましたが、昨今の研究では皮膚から食物アレルゲンが侵入することがわかってきました。これを経皮感作と呼びます。人では食物アレルギーや花粉症、喘息など皮膚以外のアレルギー性疾患も、皮膚のバリアが壊れてアレルゲンに暴露されることが発症のきっかけになる可能性が考えられています。

アレルギーのリスクが高い犬は?

アレルギー性皮膚疾患は遺伝的な要因が関与するため、特定の犬種に好発する傾向があります。特にアトピー性皮膚炎を発症しやすい犬種は、フレンチ・ブルドッグ、パグ、柴犬、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ヨークシャー・テリアなどが挙げられます。飼育頭数の多いトイ・プードル、チワワ、ミニチュア・ダックスフンドも、アレルギーで受診する犬が増えています。
ラブラドール・レトリーバーとゴールデン・レトリーバーを対象にした研究では、過度に皮膚の清潔を保つ(シャンプーを頻回にするなど)場合に発症リスクが上昇する可能性が指摘されています。おそらく過度なケアが皮膚バリアを障害し、アレルゲンの侵入を助長しているのかもしれません。

犬のアレルギーや免疫システムの研究は日進月歩であり、新たな治療法も次々と開発されています。後編では犬の三大アレルギーの症状と治療、予防について詳しく紹介します。

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