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アニマルセラピーで活躍する動物たち
~犬や猫の役割と仕事内容〜

アニマルセラピーの通称で知られる動物介在介入は、動物によって病院での治療のサポートや老人ホームでの高齢者の生活の質の向上、学校などで子どもの教育に役立てたりする方法です。今回は30年以上アニマルセラビーに携わってこられたJAHA(公益社団法人日本動物病院協会)相談役で獣医師の柴内裕子さんに、実際の現場での様子や、活躍している犬や猫のお話など、アニマルセラピーについてお伺いしました。

監修の先生柴内 裕子 獣医師(赤坂動物病院 総院長)

60年もの間、動物に関わる様々な活動に携わってきた女性初の臨床獣医師。
1986年JAHAの第4代会長時代に人と動物とのふれあいの訪問活動であるCAPP(コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム)をスタートさせる。小児病棟、小学校、高齢者施設などへ動物たちと共に訪問する活動を35年続ける。我が国におけるアニマルセラピーの先駆者であり、第一人者。人と動物の絆や、アニマルセラピーに関する講演やメディア出演、著書も多数ある。
http://akasaka-ah.com/

ライター:山ノ上ゆき子

INDEX

アニマルセラピーの種類とその役割

ペットとふれあっていると、とても心が癒されると感じた飼い主さんは多いもの。動物の癒しの効果は、共に暮らす誰もが感じていますね。広い意味ではそれもアニマルセラピーですが、日本でアニマルセラピーと呼ばれているものは、対象となる人たちへの目的があり、そのために動物が関わり実施されるもので、英語ではAnimal Assisted Interventions、正式名称は動物介在介入といいます。アニマルセラピーは大きくわけて、動物介在活動、動物介在療法、動物介在教育の3つに分けられます、動物介在活動は、一般的にアニマルセラピーと呼ばれる動物とのふれあい活動です。動物介在療法は、治療目的で、動物が介入することによる効果の評価があるもの。動物介在教育は、教育が目的で、動物が介入することによる効果の評価があるものになります。

動物介在活動
AAA =
Animal Assisted Activity
動物とのふれあい活動

動物とのふれあいをメインにした活動で、イベント的なものもありますが、現在は主に高齢者福祉施設などで実施されています。レクリエーシュンや心の安らぎ、生活の質の向上を目的とする活動になります。犬や猫は、自発行動を引き出す名手です。高齢者の表情をニコニコさせたり、動物をなでようと腕を伸ばしたり、もっとよく見えるように自力で姿勢を変えさせたり、自ら行動を起こすきっかけを作ってくれます。さらに、犬や猫がいるだけで発話が増え、犬や猫にまつわる話がどんどん出てきて会話が弾むので、介護スタッフの方がいつもと違う入所者さんたちの姿を見て、驚かれることはよくあります。治療を目的とした活動ではないため、基本的には効果の検証が行われない動物介在活動ですが、2018年の調査では、セラピー犬との触れ合いによって、参加した高齢者が喜びや幸せを感じていることが科学的にも証明されています。

《どんな調査?》
特別養護老人ホームでの調査で動物がもたらす癒しの効果を確認!

特別養護老人ホームの高齢者を対象に動物介在活動実施前と実施後に唾液でのホルモン分泌を測定、心拍センサーで自律神経機能を記録、活動実施中にビデオ撮影を行い笑顔の回数など、表情を測定し、効果を検証しました。その結果、幸せホルモンであるオキシトシンの増加や、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの減少、リラックスしている状況を示す心拍の変動、笑顔の回数が増加していることが確認できました。

※2018年、JAHAのCAPP活動チームが参加する特別養護老人ホーム「きく」での動物介在活動において、ユニ・チャーム株式会社が調査研究を実施し、2019年ニューヨークで開催された人と動物の国際会議(第15回IAHAIO)にて発表。
より詳しい内容はニュースリリースにてご覧ください。
http://www.unicharm.co.jp/company/news/2019/1211261_13296.html

動物介在療法
AAT =
Animal Assisted Therapy
人間の治療をサポート

病院やリハビリテーション施設などで、医師や作業療法士、理学療法士などの治療の効果判定ができる医療従事者の主導で行われるものが動物介在療法です。治療を受ける人にあわせた治療目的を設定し、犬が参加するプログラムを実施します。たとえば、腕を動かすことを目的にした場合は、犬に対してブラッシングやボールを投げるといった行動を、回数を設定して行います。実施後は治療効果の評価が行われるのですが、犬がいると普段よりも頑張れますね。犬の存在がモチベーションになり、リハビリテーションの促進につながっています。また、2017年の小児血液腫瘍病棟での調査では、犬とのふれあいによって、入院患児の精神的に安定する効果が出ています。患児たちも、訪問してくるセラピー犬との時間を楽しみにしているのです。

《どんな調査?》
小児血液腫瘍病棟で実施した犬とふれあう前と後で患児の喜びを比較検証

小児血液腫瘍病棟で、訪問する犬とのふれあいを行う5歳以上の入院患児とセラピー犬に対して、活動前と後のオキシトシンとコルチゾールの測定を行いました。その結果、犬とふれあい後の入院患児のオキシトシンは、活動前に比べ85%の検体で増加。セラピー犬の検体では70%が上昇していました。オキシトシンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、行動の促進、不安の減少、好奇心の増強、痛みの感覚の減少など,心を癒す働きがあるホルモンであることから、犬とのふれあいによって入院患児の精神的安定に効果があることが認めらました。

※2017年、JAHAのCAPP活動チームが参加する千葉県立こども病院小児血液腫瘍病棟において実施。

動物介在教育
AAE =
Animal Assisted Education
仲良くなる方法から読書まで

子どもは動物と暮らすことで、自分の行動で相手の行動が変化するという経験を重ね、幼児期の非言語コミュニケーションの発達や洞察力を養い、情操教育に役立つことがわかっています。このように動物が子ども達の教育をサポートすることは、日常でもたくさんあります。なかでも動物介在教育は、教育従事者が目的を設定し、動物を活用した授業計画を立て、その結果を評価するものと定められています。JAHAでの動物介在教育は、小学1・2年生の生活科の授業の中などで行うことが多く「犬と仲良くなろう」というプログラムで、犬との事故を未然に防ぐための教育を行っています。まずは飼い主さんとの挨拶から教え、犬を使ったデモンストレーションを見せ、実際にふれあいながら、「動物を悪者にしない」正しい接し方を体験してもらいます。実施の前と後の両方でアンケートを取り、学習の効果に対する評価を行っています。
また、図書館などでは、子ども達が犬に本を読み聞かせることで、楽しみながら読書力、読書意欲が増すようお手伝いする「犬との読書会」の活動が徐々に増えてきています。これは、海外では「The Reading Education Assistance Dogs」プログラムと呼ばれ、2014年に発表された南アフリカの児童を対象にした論文でも、犬がそばにいることが読書のサポートとして効果があることが認められています。

《どんな調査?》
南アフリカにて、小学生を4グループにわけた読み聞かせの比較調査

南アフリカの小学3年生102人に対して、読み聞かせる対象を「犬」「人間の大人」「ぬいぐるみ」と「何の指導も行わない」の4グループにわけて児童102人に10週間の読書プログラムを行いました。プログラム開始前は、グループ間の能力に大差がなかったのですが、終了直後と終了8週後の調査で、「犬グループ」のスコアが、「読書速度」「正確性」「理解力」のすべての項目で他のグループよりも高くなっていました。このことから、犬に対して読み聞かせをすることが、リーディングスキルの向上に効果があることがわかりました。

※2014年に発表された南アフリカ共和国ステレンボッシュ大学の研究チームによる児童を対象にした「動物を使った読書プログラムの効果」の論文(下記)より
Marieanna C. le Roux • Leslie Swartz • Estelle Swart.(2014).The Effect of an Animal-Assisted Reading Program on the Reading Rate, Accuracy and Comprehension of Grade 3 Students: A Randomized Control Study.Published online: 30 May 2014©Springer Science+Business Media New York 2014

訪問型のアニマルセラピーとファシリティドッグとの違い

私たちJAHAが行っているCAPP活動は、飼い主さん(ボランティア)と共に生活している伴侶動物と行う訪問活動です。ベイリーちゃんで有名なファシリティドッグは、こちらは直訳すると施設犬、病棟に専属で働きます。オーストラリアの厳選された血統の犬をハワイの教育機関で育成され、さらに看護師であるハンドラーがそこで教育研修を受けて、日本で犬と共に病院勤務をされています。とても素晴らしいことなのですが、育成や実施に関して、非常に費用がかかるのは事実です。ファシリティドッグは、その対価に見合った大切な仕事をしてくれるので、今後ももっと増えるといいですね。ただし、このような特別な訓練を受けた犬と医療従事者のハンドラーが活躍する病院が、日本ではまだまだ数が少ないのが現状です。対して、訪問型のアニマルセラピーは、家庭で幸せに暮らしている動物が参加します。もちろん、動物に適性があり、ハンドラーである飼い主さんも審査をクリアした人たちになりますが、1日の活動時間は、40~50分程度。それも月1回~週1回程度で、毎日お仕事をするわけではないので各々のご都合に合わせて参加して頂けることを期待しています。

柴内先生からのメッセージ

飼い主と心が通じ合う伴侶動物の代表的な存在が犬や猫です。地球上では5000種類もの哺乳動物が暮らしているのに、なぜ犬と猫が多く人間の伴侶となっているのでしょうか?
それは、適性があったからなのです。その事実は古代から助け合ってきた歴史が証明しています。犬は人間のそばにいると寒さや飢えをしのげ、人間にとっては犬の外敵に対する警戒能力が身を守ることに役立ちました。また猫は、人間の大切な穀物の周りに集まるネズミを捕まえてくれる動物でした。どちらも人間より少し体温が高く、被毛に覆われているため、寄り添っていて心地がいい。そういったことに気がついた人間が、徐々にいっしょに暮すようになり、かけがえのない存在になりました。動物介在介入・アニマルセラピーのおおもとは、すべてそこにあるのです。
今、犬や猫と暮らしていて、ふれあうことがお互いに心地が良いと感じているなら方々、アニマルセラピーで活躍できる可能性があります。次の記事では、どのような犬や猫がセラピー犬やセラピー猫になれるのかお話ししましょう。

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