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おうちでケア
〜嫌がる愛猫の爪切りのコツ〜

3D空間を自由に動き回る猫。捕まえて爪切りをするのって難しそうですね。
でも、猫の習性や気持ちを理解して、ちょっとしたコツを覚えたら、意外と簡単に爪を切ることができます。
神戸市にある「もみの木動物病院」副院長の村田香織先生にお話を伺いました。

お話を伺った方村田 香織 獣医師
(もみの木動物病院)

兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。著書に『こころのワクチン』『パピーケアスタッフBOOK』など。
http://www.mominoki-world.net/

ライター:渡辺陽

INDEX

自由に出し入れできる猫の爪

猫の爪は、ケラチンというタンパク質でできていて、骨ではなく皮膚に近いものです。腱(けん)とつながっていて、腱が伸びていると爪が足の外に出て、腱が縮んだ状態の時は、足の中に入っています。
では、猫は、どんな時に爪を出すのでしょう。一番多いのは、獲物を捕まえる時です。爪で獲物を引っ掛けて引き寄せて噛みつきます。つまり、爪は一種の武器で、この爪を引っ掛けられたら最後、そう簡単には取れることはありません。逆に、普段歩く時や走る時は、爪が出ていると不便なので、足の中にしまっています。必要な時だけ出せるようにしているのです。

後ろ足の爪は、前足の爪と同じように腱でつながっています。獲物を獲るために使うのではなく、猫同士喧嘩する時に、足を伸ばして強烈な猫キックを食らわすのに使います。また、後ろ足の爪は、飛び上がるときや駆け出すときなど、踏ん張るときに削れたり、自分の口で噛んで剥がすこともあるので、爪とぎをしなくても伸びにくい使われ方をしています。

猫の爪は、どれくらいの頻度で
切ったらいいの?爪研ぎとの違いは?

猫の爪は、玉ねぎのような層になっていて、古い爪が表面に、新しい爪は中に入っています。その中心には、神経や血管が通っています。爪とぎをすると、古い爪が剥がれ落ち、新しく、非常に鋭い爪が表面に出てきます。つまり、猫は、爪を研ぐことで、自分の武器を磨いているのです。
このように、猫は自分で爪を研ぐので、健康上の理由で爪を切る必要はありません。ただ、高齢になると爪を研ぐ頻度が減るので、巻爪にならないよう注意してあげる必要があります。

猫は自分で爪を研ぐので、基本は爪切りをしなくてもいいのですが、人と暮らす上では問題が出てきます。研ぎ澄まされた猫の爪は非常に鋭利なので、膝の上にポンと乗られた時や、肩や胸からずり落ちないようにしがみつかれた時、思わず「痛い!」と声を上げてしまうほどの痛みを感じます。また、家具や壁面が傷つくのを防いだり、多頭飼育の場合でも他の生きものを傷つけたりすることがないよう予防する必要があります。そのため、予防する程度の爪切りをするといいでしょう。

体や足に触る練習をしよう

猫の爪切りをする場合、まずは、体や足を触られても嫌がらないよう、馴れさせます。猫は感覚が鋭く、足先や耳や目などの顔のパーツを触られるのが苦手です。特に足先は、猫が生きていくために重要な部位なので、非常にセンシティブ。万が一足を怪我してしまうと、獲物を捕まえにくくなりますし、猫が獲物として狙われた場合は、相手から逃げられなくなるからです。そのため、爪を切ろうといきなり足に触ると、当然のことながら猫は嫌がります。生まれながらにして嫌な部分を触られ、敏感な爪を切られたら、それを「とても嫌な思い出」として記憶されてしまうのです。ましてや、押さえつけられて爪切りをされたら、猫は、爪切りを見ただけで逃げ出すようになってしまうでしょう。

ですから、いきなり爪切りにチャレンジするのではなく、体全体と足を触る練習から始めることが大切なのです。

爪を切る時には美味しいごほうびを使おう

猫が足に触らせてくれるようになったら、爪切りをしてみましょう。その時も、いきなり全部の爪を切ろうとするのではなく、まず1本切ってみて、様子を見ながら徐々に増やしていきます。爪を切る長さは、一緒に生活していく上で差し障りのない程度、爪の先を少し切るだけで構いません。
一人で切る時も二人で切る時も、おいしいフードを使うといいでしょう。ペースト状のおやつやウェットフードなどをお皿に塗り拡げ、猫が夢中になって食べている時に切るのがおすすめです。こうしたおやつは、「特別な時」に使うと、より効果的です。
二人で切る時は、一人の人が猫を抱っこして爪を切り、もう一人の人がおやつの器を猫の口元に持っていってあげます。

タオルにくるまれるのに馴れている猫であれば、保定するのにタオルを使うと落ち着きます。猫が普段使っていて、自分の匂いがついているものを使いましょう。タオルでくるむ練習も、普段からしておくと、治療の時も便利です。

黙々と作業をしない、おだやかな声掛けも大切

猫の爪切りをする時に、もうひとつ大切なのは、黙々と作業しないことです。人は、ついつい爪切りに集中して無言でやってしまいますが、人間の「やるぞ!」というオーラや緊張感が伝わって、動物は恐怖感を感じます。
気持ちを楽にして「おりこう~」と、やさしくおだやかに声をかけながら爪切りします。音源定位(おんげんていい)といって、物音がするとその音がどこから聞こえるのか猫の意識がそちらに向きますので、他のことから気をそらすことができるのです。

実際に爪切りをしてみよう

爪切りには、ハサミタイプのものか人間用の爪切りを使うのがおすすめです。電動やすりタイプのものもありますが、音や振動を不快に感じる可能性があります。

1.ごほうびを準備

美味しいごほうびを用意します。

2.肉球をやさしく押さえて爪を出す

抱っこする、もしくは立った状態で足を持ち、肉球の上下を挟むように軽く押さえて、爪を出します。これも普段から練習して慣らしておくといいでしょう。

3.少しずつ様子を見ながらカット

爪の先だけ、ちょんちょんと切れば完了です。

人間でも、いきなり押さえつけられて爪を切られたら、怖いですよね。それは猫も同じ。特に、敏感な足先は触られるだけでも嫌なのです。ボディタッチから初めて、足先に移り、触られるのを「気持ちいい」と感じられるようになったら、少しずつ爪切りにチャレンジしてみましょう。