猫の腎臓を健康に保つ工夫
高齢猫の多くが腎臓疾患を抱えているといわれますが、なぜ猫は腎臓病にかかりやすいのでしょうか?
今回は猫の腎臓の働きと役割や、穏やかな老後を過ごしてもらうために腎臓を長持ちさせる工夫について、
赤坂動物病院総院長の柴内裕子先生にお話を伺いました。
お話を伺った先生柴内 裕子 獣医師(赤坂動物病院)
公益財団法人日本動物病院協会(JAHA)相談役/公益社団法人日本動物病院協会CAPP認定動物審査委員/社会福祉法人日本聴導犬協会監事
1987年より人と動物とのふれあい活動(コンパニオンアニマルパートナーシッププログラム=CAPP)をスタートさせ、現在も動物たちとともに小児病棟、小学校、高齢者施設などへのボランティア活動を牽引。2013年には環境省より動物愛護管理功労者表彰を受賞。
http://akasaka-ah.com/
高性能で働き者の猫の腎臓
なぜ高齢になると腎臓の悪い猫が増えるのでしょうか?
イエネコの祖先といわれているリビヤヤマネコは、昼夜の寒暖の差が激しく、降水量も少ない砂漠地帯に生息していました。この厳しい生息環境を生き延びて来たネコの腎臓は、体内で使う水分を究極まで排泄しないですむよう、少量の水分で老廃物を濾過するなど、高性能な濾過装置を持つようになりました。
一昔前、猫の平均寿命がまだ7〜10才であったころは、今ほど腎臓病の猫は多くいませんでした。しかし、平均寿命が15歳を越える現在、多くの猫たちは、働き過ぎてダメージを受けた腎臓を抱えています。イエネコとして人と暮らすようになって、充分な食事や水が摂れる生活になっても、猫の腎臓はいつもフルパワーで非常によく働く臓器なのです。
- ※猫の腎臓病には、モルビリウイスルが関与しているかもしれないという研究者もいます。ネコモルビリウイルス(Feline morbillivirus:FmoPV)感染症は、2012年に香港で発見され、高齢猫の多くが慢性腎不全になるその一部に関与していることが疑われています。
- ※「2018年度の猫全体の平均寿命は15.32歳」日本ペットフード協会発表(2018年12月25日)
猫の腎臓が悪くなってくると、どんな症状が現れるのでしょうか?
老廃物が体内にたまり、さまざまな代謝に影響が起こります。そのために食欲不振、脱水、元気消失、体重減少、さらに激しくなると尿毒症になり、全身にさまざまな症状が出ます。尿量の増加、咽の渇き、いわゆる多飲多尿ですね。そのほか貧血やおう吐、神経症状、他臓器不全などを引き起こし、治療に反応できなくなると死に至ります。
一般的には、多飲多尿だったり毛づやが悪くなってから気づく飼い主さんが多いようですが、その時点ではかなり腎臓病が進行している可能性が高いので、そうなる前に対応してあげたいですね。
猫の飲水量と季節の関係
冬場になると結石や膀胱炎などで体調を崩す猫が増える気がしますが、季節と猫の腎臓には関係性がありますか?
寒くなると猫はますます動かなくなりますし、飲水量も減ります。また寒冷ストレスも腎臓機能を低下させる要因となるので、猫が動きやすい室温を保ち、遊び相手となって猫を運動させ、水を飲みやすい、猫が水を飲みたいと思える環境を作ってあげましょう。
冬よりは行動的に動く夏場でも、充分に水を飲んでいなければ腎臓に負担がかかるので、猫が好きなだけいつでもたくさん水が飲める工夫が必要です。
猫に必要な飲水量は一日どのぐらい与えるべきでしょうか?
猫の年齢や性別、性格や運動量、生活環境、食事内容などによって差はありますが、体重1kgあたり50〜60ml程度の水分を摂っていることが好ましいとされています。例えば体重5kgの大人の猫だと、1日に250〜300ml、ウエットフード(缶詰フードなど)の食事に含まれる水分もそれに含まれます。(多くの場合、缶詰フードには60〜80%、ドライフードには8〜10%前後の水分が含まれます)
腎臓を健康に保つ工夫とは
猫の腎臓を健康に保つためのケア方法はあるのでしょうか。
その1.ストレスをかけない
猫にストレスをかけない生活が一番大切ですね。若い猫では、感染症や尿路疾患を起こす尿路結石や腎臓結石が多く、その多くがストレスと関連があると思われている膀胱炎などなので、腎臓より後方(下方)でおこる病気の予防が大切です。
多頭飼育も猫に大きなストレスを与えるので、猫の数は自宅の部屋数と同じかそれ以下に。トイレはいつも清潔にして、トイレの数は猫1頭あたり2個が理想です。そして、定期的に猫が身体を動かして遊ぶように誘ったり、毎日マッサージやブラッシングをしたり、代謝を促してください。猫の年齢や体型にあったフードを選ぶことも大切です。
その2.たくさん水を飲んでもらう工夫をする
水飲み場をたくさん作り、さまざまな水飲み器を用意するとよいでしょう。猫は動くものに興味を示すので、水が循環したり、ぽたぽた落ちるようにし、水の温度も冷たいのや意外と温めの湯を好む猫もいますので試してみてください。愛猫の好みを観察して、水場を用意してあげてましょう。
ヒゲが食器にあたることをいやがる猫も多いので、水飲みの器は間口が広い方がよいでしょう。また、アルカリイオン水など特別な水ではなく、水道の水で充分です。
このほか、猫の食事のウエットフードには、約60〜80%近くの水分が含まれているので、ドライフードだけではなく、ウエットフードを与えることも水分摂取につながる工夫のひとつです。
その3.定期的な健康診断で、今の腎臓の状態を確認しておきましょう
子猫の間は、ワクチンや不妊手術など動物病院へ行く機会が頻繁にありますが、健康状態が安定してくると、動物病院へ行く機会が減る傾向があります。猫はギリギリまで自分の体調の悪さを隠そうとする動物なので、10才を過ぎ、毛づやが悪くなったり、体重が減ってはじめて病院に連れてこられることが多いですが、その時点ではすでに腎臓がダメージを受けてしまっている可能性が高いのです。
若いころから定期的に動物病院へ連れて行き、健康診断を受けさせて下さい。赤坂動物病院では、7才になったらキャットドッグなど初老検診をお勧めしています。またこの時期から食事内容の見直しや、生活に活気を持たせる工夫をしてあげましょう。検査結果によっては、今後どのように腎臓を長持ちさせられるかの指導、例えば自宅での皮下点滴などの指導も行います。
腎臓は再生できない臓器なので、悪くなる前に長持ちさせられる生活を心がけてあげましょう。
飼い主さんによる観察と生活環境を整えてあげることが重要
「いま、わたしたちのそばにいるイエネコは自然界から、人間の社会に引き入れた動物です。猫にとって健康的な環境を整え、健康的に寿命を終えることができるように支えてあげる責任が、飼い主(人間)にはあるのです」と語る柴内先生。
今回お話を伺って強く思ったことは、「猫の腎臓は実に高性能で、いつもフル回転で非常によく働く→だからこそ、負担がかかりやすいので、若いうちから定期的に検診を行い、今の腎臓の様子をきちんと観察し、できる限り長持ちできる生活環境を整えてあげる」ことが重要だということ。日頃の飼い方が、猫の健康寿命につながりますね。