猫の発情期について知ろう
〜時期や期間・去勢・避妊について〜
冬が終わりを迎え暖かくなる兆しを感じられる頃、外から猫の大きな鳴き声が聞こえてきたことはありませんか?
それは猫の発情期が訪れているのかもしれません。
発情期の猫はどのような行動をとるのか、時期や期間について解説します。
監修の先生内田 恵子 獣医師(元苅谷動物病院グループ統括院長)
小動物臨床に35年間従事した後、現在は動物病院運営のためのアドバイスを開始している。JAHA内科認定医、JAHAこいぬこねこの教育アドバイザーであり、動物病院で動物の入院中ストレスや診察中ストレスを軽減し、病院で問題行動を作らないような技量を広めるため活動中。
猫の発情期はいつ頃からはじまる?
猫は暖かくなってくると繁殖期を迎えます。繁殖期の訪れは昼間の長さが延び始めた1月頃に始まり9月頃まで続くことがあります。なかでも春(2月〜4月)と夏(6月〜8月)がピークで、屋外で子猫を見かけることもあるでしょう。メス猫の発情は日照時間と関係していて、日照時間が14時間を越えると反応して発情期を迎えるといわれています。それは、寒くて食べ物の少ない冬よりも、食べ物が豊かな暖かい季節に出産したほうが子猫の生存率が高まるだろうと、本能的にその時期を選んでいると考えられています。このメカニズムは、太陽の光だけでなく人工の照明でも引き起こされます。1日12時間以上灯りがついている環境下にいる場合、季節性関係なく年中発情しやすい状態になります。
日照時間に関係して発情するのは、実はメス猫だけです。オス猫は、発情しているメス猫の鳴き声やフェロモンに刺激され発情が誘発されます。
メスとオスで違う発情期の行動
メス猫の初めての発情は、一般的に性成熟を迎えた生後6〜12ヶ月頃にやってくるといわれますが、生まれた季節や環境、また長毛種・短毛種によって性成熟を迎える月齢にはむらがあり、生後12ヶ月以上経過してから初めての発情を迎えるケースもあります。メス猫の発情には「発情周期」とよばれる、「発情前期」「発情期」「発情後期」「発情休止期」の4つを繰り返すサイクルがあります。
発情期を迎えたメスは、本能的にオス猫に存在をアピールするため、声やニオイをふりまく行動が始まります。
メス猫の発情期の行動
- 普段聞いたことのないような大きな声で鳴く
- 背中を床につけて何度もくねくねする
- お尻を高く持ち上げる姿勢をとる
- オス猫のようにスプレー状にオシッコをまく
- トイレ以外の場所でオシッコする
一方、オス猫は生後3ヶ月頃から性成熟が始まり、生後5〜6ヶ月頃には精巣が発達します。この時期からマウンティングやマーキングなどが始まります。生後9〜12ヶ月ごろには交尾ができる体への準備が整い、本格的な交配が可能になります。メス猫のように発情周期はありませんが、メス猫の発情した鳴き声やフェロモンなどのアピールに反応して発情します。
オス猫の発情行動
- 落ち着きがなくなる
- 大きな声で鳴く
- メス猫の発情の気配(鳴き声やフェロモンの匂い)がする方向に向かおうとする
- 尿スプレーをする
- 多頭飼育の場合、ほかの猫に対して攻撃的になることもある
メス猫は早くて4ヶ月で発情期を迎える場合があり、ゆくゆく不妊手術を検討していたが間に合わずに発情期が訪れてしまったというケースがあります。少し前まで幼かった猫が、普段と違う行動が始まって戸惑うこともあるでしょう。発情は生理的な行動なのでコントロールすることは難しいため、叱ってやめさせようとしたり、マタタビを与え過ぎたりすることはやめましょう。
- ※専門家による会陰部を刺激する方法もありますが、一般家庭での対処方としてはおすすめできません。
発情期中の困りごととして、赤ちゃんの泣き声に似た夜鳴きや尿スプレー行為が多くあがります。繁殖の予定がなく発情に伴う行動に困るなら、オス猫は手術後24時間の間には、テストステロンという男性ホルモンが下がるため去勢手術を行うのが有効です。一方で、メス猫の場合は、発情中は子宮内が充血しているため避妊手術を避け、発情期が終わってから手術をすることがあります。初めての発情期をそのままやり過ごすケースは珍しくありません。以下の環境づくりを参考に発情期の心構えをしておきましょう。
発情行動の対処方法
- スプレーしそうな場所に撥水性のシートを貼る
- 同じくしそうな場所にトイレシートを設置する
- 音やニオイが外に漏れないよう気密性を高くする(外猫対策)
- 過度に甘えてきても放っておく
メス猫の発情期の期間は1週間前後。つらそうに見えて何かしてあげたくなっても、そっと見守り続けることが大切です。そして、発情期が一旦終わっても、未避妊の場合であれば2〜3週間後に再び発情期は訪れます。次の発情期のことも念頭におき、避妊手術についてかかりつけの獣医師と相談しましょう。
猫の妊娠から出産まで
人間の女性は通常毎月排卵と月経を繰り返していますが、猫の場合は交尾の刺激により排卵します。交尾をするとほぼ100%妊娠するといわれ、また、多排卵動物なので、一度に複数の卵子を排卵し複数のオスの精子を着床させることが可能です。交尾後、猫の妊娠期間は約62~67日と幅がありますが、約2ヶ月で1頭から最大8頭(乳首の数)まで出産することができます。
妊娠20日頃
乳首がピンク色に変わる。1週間ほど食欲が落ちる時期がある。
妊娠30日頃
乳房がふくらみ、おなかのふくらみも確認できる
妊娠45日頃
食欲が増し体重が増加する。それと共に活動量が低下する。
妊娠50日頃
胎動(たいどう)を感じることが出来る。
妊娠60日頃
分娩の2~3日前からお乳が出てくるようになる。分娩の24時間前から、食欲が急激に低下する。
分娩が近づいてくると、出産に適した場所を求めて探索を始めます。分娩前の早い段階で自分のニオイをつけることで安心を得るためです。家の中で出産する場合は、ふかふかの毛布と、目隠しのできるペット用サークルやダンボールなどを準備して、安心できる「産箱」環境を作ってあげましょう。
不妊手術(避妊・去勢手術)はなぜ必要なのでしょう
猫を飼うとき、不妊手術が推奨されています。
子猫を迎えた際、必ず直面する避妊・去勢について、今一度、なぜ不妊手術が必要なのかメリットとデメリットについて見直してみましょう。
不妊手術のメリット
- ①生殖器系の病気を予防できる
メス猫は避妊手術をすることによって、乳腺腫瘍や子宮内膜炎、子宮蓄膿症などの生殖器系疾患を防ぐことができます。特に猫の乳腺腫瘍は、ほとんど悪性で発見され致死率の高い病気です。
- ②望まない妊娠を避けられる
メス猫が未避妊のまま屋外に逃げ出してしまい、「無事に帰ってきたと思ったら妊娠していた」なんてことは多いケースです。猫の繁殖力は高く、例えば1頭のメス猫がオス・メス各3頭の6頭を出産し、そのまま親子7頭未避妊のまま暮らした場合、16ヶ月後には約80頭まで増えてしまう可能性は大いにあります。複数のメス猫となんどでも交配が可能なオス猫と、交尾をするとほぼ100%妊娠するメス猫が、未避妊のまま一緒に暮らしていれば胎児数は容易に増え続けるでしょう。膨らみ続けた頭数すべてに里親を見つけるのは困難で殺処分にもなりかねません。望まない妊娠を防ぐことは、殺処分されるために生まれてくる不幸な命を救うことでもあります。
- ③性的欲求のストレスを取り除ける
本来の生殖本能を叶えることができないのは、猫にとって非常に強いストレスになります。日照時間の長い季節の間、発情期が繰り返し続くわけですから、大きなストレスとなって健康面に影響を及ぼすことも…。 - ④オス独特の行動を抑えられる
オス猫の本能であるテリトリー誇示の領域を狭めることができます。室内飼育のオス猫が屋外でメス猫の発情期の気配を感じ取り、屋外のメス猫を強く求めて屋外へ出てしまうケースも少なくありません。なわばりを意識する範囲を狭めることは、交通事故や感染症のリスクから守ることができ、多頭飼育下でのほかの猫に対するマウンティング行動や攻撃行動を抑制することができます。 - ⑤近隣トラブルを未然に防げる
猫の3大近隣トラブルに「騒音」「ニオイ」「不衛生」が挙げられます。中でもニオイ問題は、縄張りを示す役割のある尿のニオイからくるもの。このニオイは尿中のアミノ酸の一種であるフェリニンによるもので、成長と共にニオイも強くなっていきます。未去勢のオス猫の場合特に強く、広範囲に強烈なニオイを残します。去勢することにより尿中のニオイ物質の濃度を下げ、ニオイを軽減することができます。
不妊手術のデメリット
- ①生殖機能を取り除くため二度と妊娠させてあげることができない
- ②病気ではないのに全身麻酔をかけることへの不安
不妊手術の全身麻酔に不安を感じる飼い主さんも少なくありませんが、手術の際にリスクがないか術前検査を行った上で決めますので不安に感じる必要はありません。術前検査では、胸部レントゲン検査や心電図、腹部の超音波検査など組み合わせて行う場合もあります。猫の生涯で、全身麻酔をかける機会はこの1度かもしれないと考えれば、それは、動物病院が苦手になりやすい猫ちゃんをしっかり検査できる唯一の機会にもなり得るということです。
飼い主が愛猫のために考えるべきこと
生殖機能を取り除いてしまうことや、病気ではないのに全身麻酔をかけることへの負い目や不安を感じるのは、愛猫を想う正常なことです。しかし、伴侶動物として迎えたからには、飼い主として愛猫の健康を守る責任があり、肉体的な苦痛や不快から開放してあげられるのも飼い主さんに選択権があります。ずっと一緒に暮らすことを考えて、大切な愛猫との暮らしに合った選択をしましょう。
最後に
もし道を歩いているときなど、屋外で猫の大きな泣き声が聞こえ始めたら、発情期が始まっている合図かもしれません。猫トラブルで困ったら、市役所などで飼い主のいない猫対策や地域猫活動などの支援部署に問い合わせ、相談してみましょう。
生まれたばかりの赤ちゃんを拾ってしまった場合の保護の方法については、こちらの記事で紹介しています。
もしも生後間もない子猫を拾ったら~生まれたばかりの赤ちゃん猫の育て方~
https://jp.unicharmpet.com/ja/web-magazine/cat-000009.html