観察からはじめる愛猫のおしっこ(尿)体調管理
猫は泌尿器の病気に注意が必要ですが、
飼い主さんが自宅でおしっこの色や排尿時の姿勢を確認できるので、
体調管理がしやすいというメリットもあります。
猫の病気のしぐさや行動を見逃さないことが大切です。
さらに将来、動物病院へ連れて行くときに備えて、
ストレスを減らす受診方法について紹介しましょう。
監修の先生入交 眞巳(いりまじり まみ)獣医師
米国獣医行動学専門医。学術博士。動物病院に数年間勤務した後、アメリカに留学。アメリカ・インディアナ州立パデュー大学で博士号取得。ジョージア州立大学獣医学部にて獣医行動学レジデント課程を修了。帰国後、北里大学動物行動学研究室専任講師、日本獣医生命科学大学獣医学部獣医学科講師を経て現職。どうぶつの総合病院 行動診療科主任、東京農工大学 特任講師。
「猫は病気を隠したがる」
という話は本当?
飼い主が気づきにくいので隠しているように見えるかも
犬に比べて猫は動物病院を受診する機会が少ない動物です。飼い主さんの間で「猫は病気を隠したがる」という話が広まっていますが、猫には病気を隠しているつもりはないかもしれません。私たち人間が必ずしも体調の悪さを大げさにアピールしないように、動物も「弱っています」「助けてください」というサインを無闇に見せないのです。
猫の不調のサインは小さなしぐさなので、本当に具合が悪いときも飼い主さんが見落としてしまう可能性もあります。少しずつ進行している場合、昨日と今日の変化を比べてもわかりづらいもの。記憶に頼るのではなく、カレンダーに記録したり尿の写真を撮っておいたりして、長期的に体調管理ができるようにしましょう。
猫は不調があるときに姿を隠すことがあるので、屋外飼育が一般的だったころに「猫は病気を隠したがる」という都市伝説が広まったのかもしれません。しかし今は室内飼育が推奨され、飼い主さんと猫の距離が近くなりました。日々の体調管理で不調にいち早く気づくことは十分に可能なのです。
猫がおしっこの病気になりやすい理由
いろいろな説がありますが、遺伝子の異常や体質の問題です
猫は結石症(特にオス)や膀胱炎などの泌尿器の病気になりやすい動物です。さらにシニアになると腎臓病になる猫が増えていきます。ペット保険を扱うアニコム ホールディングス株式会社が発行している「家庭どうぶつ白書2020」によれば、2020年の泌尿器疾患の請求割合は2番目に多い14%※です。
※対象:115,440頭(猫、0 ~ 12歳)
病気のリスクについてはさまざまな説があります。「砂漠地帯に住んでいたイエネコの祖先のリビアヤマネコが、体内で水分を極限まで使えるように腎臓を稼働させているため負担がかかりやすい」ともいわれますが、約1万年前の祖先が現在の猫の体質にどのくらい影響しているのか、実際のところは不明です。
近年の研究により、腎臓病になる猫には遺伝子の問題があることがわかってきました。実は人にも似たような遺伝子があります。さらに体質などいろいろな要因があります。高齢になると腎臓に負担がかかりやすいのは事実なので、水を飲ませる工夫をすることが大切です。
出典:アニコム『家庭どうぶつ白書2020』から猫の疾患( 大分類単位)の請求割合
しぐさや行動の変化で病気を見つける
リスクの高いおしっこの病気を早期発見できるように、しぐさや行動を注意深く見ておきましょう。猫が排尿時に痛みを感じている場合、姿勢が固まったり鳴き声を上げたりするほか、もそもそと動いて表現することもあります。痛みがなくても排泄のたびに「ニャーニャー」と鳴いたり、我慢強くてこれらの行動を見せなかったりこともあるので、愛猫の個性を見極めることが大切です。
知っておきたい排尿時の異常のサイン
- 急に粗相が増えた(トイレではない場所で排泄する)
- トイレの回数が増える
- 尿の量が変わった
- 尿の色が変わった
- 尿のにおいが変わった
- 排尿するときに痛そう
- 尿に血が混ざる
- 下腹部や太ももを気にする(ずっとなめている)
- 下腹部や太ももの毛が薄くなっている、脱毛している
- 水を飲む量が増える
- 水を飲む回数が増える
たとえばトイレの環境が変わった場合、病気ではなくても警戒して一時的にトイレの回数が減ることがあります。トイレの環境が猫の好みに変わった場合、逆に回数が増えることも。糖尿病などでも回数が増えるので、変化があった場合は動物病院に相談しましょう。
おしっこチェックで尿を確認
尿を気にすることで、全身の体調管理につながります
家庭で採尿して色を確認できるおしっこチェックを活用するのもよい方法です。採取するために飼い主さんがおしっこを気にする習慣がつくので、トータルな体調管理につながります。半年に1回でもチェックできれば、病気に気づかずに悪化してしまうことを避けられるかもしれません。病気になってからではなく、病気になる前から始めることが重要です。
最適なトイレ環境で健康を守る
トイレのセオリーを参考に愛猫の好みを見つけましょう
猫のトイレのセオリーをもとに、愛猫の好みに合わせてアレンジしましょう。
トイレの中で掘って排泄して埋めるという一連の動作が、ゆとりをもってできる大きさを確保すること。猫の頭からお尻までの1.5倍のサイズが目安です。においがこもらないようにフタはないほうがいいでしょう。ただし中には隠れられたほうが落ち着く猫もいます。
猫が暮らしているエリアから離れすぎず、プライバシーを保てる場所に設置します。シェルターでは寝床と食事場所とトイレはそれぞれ50cm以上離すことが基本ですが、家庭の猫はもっと離したほうがいいでしょう。
多頭暮らしをしている場合はトイレを並べるのはできる限り避けた方がよいでしょう。もし相性が合わない猫たちがいる場合は、トイレの場所をその猫がよくいるところから離しましょう。トイレは頭数プラス1個がセオリーですが、置くのが難しい場合、1個だけ常に清潔なトイレを用意しておく方法もあります。また、大きいトイレを用意しておくと、他の猫が排泄したところから離れた位置で用を足せるので、きれい好きな猫でも我慢することなく使おうとするでしょう。
猫のストレスが少ない
動物病院の受診方法
キャリーに慣れる練習やオンライン診療がおすすめ
診断や治療のために受診する際には、キャリーに慣れる練習をしておいたほうがストレスを減らせます。キャリーを常に部屋に置いておき、フードやおやつを入れて中で食べさせましょう。もし子猫であれば、キャリーに入れた状態で外を歩いてお出かけの練習をしたり、動物病院に行っておやつをもらって帰ってきたりする方法も有効です。
災害時に猫と避難するためにもぜひ練習しましょう。動物をキャリーに入れられる飼い主のほうがその人自身も助かる確率が高くなることが明らかになっています。
ただしキャリーや動物病院がかなり苦手な猫は、練習すればするほど逆効果になりかねません。事前に不安をやわらげる薬を処方してもらって、それを飲ませてから連れて行くほうが猫の負担が少なくて済みます。薬に対して抵抗感がある方もいるかもしれませんが、私たちも内視鏡検査を行うときにごく普通に飲むものです。
力づくで洗濯ネットに詰め込んで連れて行くより、動物病院と相談しながら猫に無理のない方法で受診しましょう。負担を減らせれば、新たな病気の予防にもつながります。近年はオンライン相談・診療(遠隔医療)を取り入れた動物病院が増えてきているので、まずは獣医師に相談してみるのもよい方法です。
病気の治療を想定した
ハンドリング
腎臓病の治療に必要な皮下補液のことも考えておきましょう
診察するときを想定して、ハンドリングや投薬の練習もしておきたいもの。来客におやつをあげてもらう、注射器にペーストのおやつを入れて食べさせる、口を開けておやつを口に入れるという練習が役立ちます。目薬をさす練習をする場合は、猫の正面ではなく後ろから目薬をさすふりをすることから始めましょう。
おしっこの病気の中では腎臓病の治療に慣れる練習もおすすめ。腎臓病が進行すると慢性的な脱水状態になるため、皮下補液を注入して水分を補給する治療を行います。その際に背中をつまんで針を刺すため、ペーストのおやつをなめさせながら背中をつまむ練習をしておきましょう。腎臓病は体重が減りやすいので、猫を抱っこして体重を量り、自分の体重を引けばOKです。
体調管理の習慣や動物病院へ連れて行く練習は、健やかな成長や将来の寿命に影響します。猫はおしっこの病気になりやすい動物ですが、毎日の排尿時にしぐさや尿の状態を確認できます。飼い主さんが自宅で早期発見できる病気も多いので、愛猫のために今日から体調管理を始めましょう。