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猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ)について知ろう

これから迎える猫や、すでに一緒に暮らしている猫がもしも猫エイズと診断されたら…
「エイズ=死」と思われがちですが、発症までの潜伏期間は無症状で健康な猫と変わらない生活を送ることができます。
この病気と向き合っていくには正しい知識を持つことが大切です。

監修の先生内田 恵子 獣医師(元苅谷動物病院グループ統括院長)

小動物臨床に35年間従事した後、現在は動物病院運営のためのアドバイスを開始している。JAHA内科認定医、JAHAこいぬこねこの教育アドバイザーであり、動物病院で動物の入院中ストレスや診察中ストレスを軽減し、病院で問題行動を作らないような技量を広めるため活動中。

INDEX

猫エイズってどういう病気?

猫免疫不全ウイルス(Feline Immunodeficiency virus:略してFIV)の感染が原因で、免疫力が徐々に低下するのにしたがって、発熱や血液系トラブル、口内炎やリンパ節腫瘍など、さまざまな症状を併発していき、最後は後天的免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome:略してAID)いわゆる「エイズ」を発症し確実に死に至る病です。根本的な治療法は未だ見つかっていません。ただし、感染後すぐに死に至るわけではく、潜伏する無症状の期間があり、発症せずに命をまっとうする猫もいます。

猫エイズの感染経路とは

感染経路の多くは、猫免疫不全ウイルスに感染した「キャリア猫」とのケンカによる咬傷で、キャリア猫の唾液中に含まれるウイルスが傷口から侵入し感染します。そのほかにも、オス・メスの交尾による経分泌液による異性間の感染や、母猫から子猫へ胎盤やお乳を通じた母子感染が証明されていますが、なかには感染せず生まれてくることもあるため、感染確率の高い主な感染経路は咬傷といえるでしょう。

猫エイズはネコ科のみに感染する(人や犬にはうつらない)

「エイズ」との呼び名から人への感染を心配されることがありますが、猫エイズウイルスは、人や犬には感染しません。ネコ科以外には感染しないウイルスです。また次に多い誤解として、空気感染や接触感染を心配されたりもしますが、そこまで感染力の強い病原体ではないので感染猫と直接の接触を防ぐことができれば感染しません。

猫エイズに感染してもすぐに発症するわけではない

猫エイズは感染後すぐに発症するわけではなく、症状が現れない「潜伏期間」ともいえる時期が約数年〜10年以上あります。感染しても数年間は症状なく暮らせる期間があり、なかにはキャリア猫であっても健康な猫と同じように過ごしている猫もいます。猫エイズの5段階の臨床経過のステージの特徴を知っておきましょう。

5段階の進行(ステージ)と症状

ステージ 症状 経過
急性期 感染後、数週間は発熱や下痢、全身のリンパ節の腫れ、食欲減退などが起きるが次のステージに進むについて症状がなくなっていく。 数週〜数ヶ月
無症候性キャリア一期 無症候性とは原因となるウイルスや細菌に感染していても症状が外見に現れていない状態のこと。この特に症状がみられない状態が数年〜10年以上続く。
(外には目立った症状は現れないが、ゆっくり免疫機能を持つリンパ球が減少していく時期)
数年〜10年以上
持続性全身性リンパ節症期 全身のリンパ節が腫れる。 数カ月〜1年
エイズ関連症候群期 血液検査で貧血、血小板、白血球の減少が著しく見られる時期。歯肉口内炎や鼻汁、咳、くしゃみ、結膜炎・皮膚炎などの慢性疾患があらわれるようになる。 数カ月〜1年
エイズ期 免疫機能が極めて低下。食欲減退、著しい体重減少、日和見感染※1などが起きる。
エイズ期に入った猫は数ヶ月で死に至る。
数カ月

※1:日和見感染=健康な状態では感染症を起こさないはずの病原体が原因で発症する感染症のこと。

ステージ 経過
急性期 数週〜数ヶ月
症状
感染後、数週間は発熱や下痢、全身のリンパ節の腫れ、食欲減退などが起きるが次のステージに進むについて症状がなくなっていく。
ステージ 経過
無症候性キャリア一期 数年〜10年以上
症状
無症候性とは原因となるウイルスや細菌に感染していても症状が外見に現れていない状態のこと。この特に症状がみられない状態が数年〜10年以上続く。
(外には目立った症状は現れないが、ゆっくり免疫機能を持つリンパ球が減少していく時期)
ステージ 経過
持続性全身性リンパ節症期 数カ月〜1年
症状
全身のリンパ節が腫れる。
ステージ 経過
エイズ関連症候群期 数カ月〜1年
症状
血液検査で貧血、血小板、白血球の減少が著しく見られる時期。歯肉口内炎や鼻汁、咳、くしゃみ、結膜炎・皮膚炎などの慢性疾患があらわれるようになる。
ステージ 経過
エイズ期 数カ月
症状
免疫機能が極めて低下。食欲減退、著しい体重減少、日和見感染※1などが起きる。
エイズ期に入った猫は数ヶ月で死に至る。

※1:日和見感染=健康な状態では感染症を起こさないはずの病原体が原因で発症する感染症のこと。

猫エイズを予防するためには

猫を完全室内飼育で外猫との接触を避けることが一番の予防になります。 猫感染症研究会で公表されている調査によると、屋内と野外を自由に行き来する猫の感染率は、完全室内猫と比べ15〜30%と高いことが知られており、野外に出ることのできる猫の感染危険率は屋内猫のそれに比べ、20倍高いことが報告されています。また、オス猫はメス猫に比べ感染猫の割合が2倍以上多いそうです※2。これはオス猫の特性でもある縄張りを守る闘争本能によるケンカで感染が多いことがいえるでしょう。

多頭飼育の注意点

すでに先住猫がいて新たに猫を迎える場合は、ウイルス検査をおこない感染していないことを確認することが必要です。先住猫が野外を出入りしている場合も同様に感染がないことを確認しましょう。もし、陽性の猫と同居をする場合は、感染していない猫に感染を予防するワクチンを接種するようにしましょう。また、ワクチンは1度で免疫ができるわけではありません。8週齢以上の猫に2〜3週間間隔で3回注射します。その後1年以上の間隔をあけて免疫の持続を目的に定期的なワクチン接種が必要です。陽性の猫と非感染猫との同居を検討する場合は、計画性をもって迎える日までのプランを立てるようにしましょう。

キャリア猫の見分け方

キャリア猫であっても、外見に症状が現れない無症候性キャリア一期ではステージの場合、外見上は健康な猫となんらかわりません。ただし、もし元々屋外で暮らしている猫で、顔や体に傷痕があったり、幾多の闘いを乗り越えてきた強そうな表情をしている猫の場合、過去に咬傷の経験があるかもしれません。猫エイズは咬傷による傷口に唾液中のウイルスが侵入して感染することがわかっています。保護する際や飼い猫との接触の可能性がある場合、猫エイズのウイルス検査やワクチン接種を受ける目安のひとつになります。ただし、前述した通りキャリア猫、非キャリア猫どちらであっても迎える際には必ずウイルス検査を行い、完全室内飼育を守りましょう。

キャリア猫との
暮らしのアドバイス

もしも飼い猫がエイズに感染していたら、飼い主として大きなショックを受けることでしょう。また、保護猫で迎えたい猫がもしも陽性猫だったら、根本的な治療法が未だ見つかっていない点で大きな不安を抱えるでしょう。しかし、キャリアであっても無症候性キャリア一期の間に、発症させない暮らしを心がければQOLを高く維持しつづけることができるのではないでしょうか。ストレスは免疫を下げることがわかっています、特にストレスを与えない生活環境づくりが大切です。

キャリア猫との暮らしのポイント

  • いつも清潔なトイレにする
  • いつも新鮮な水と栄養バランスのよい食事を準備する
  • キャットタワーなどの上下運動ができる場所を設置
  • 騒音などが少ない落ちつける寝床の確保
  • 去勢・不妊手術をし、完全室内飼育で他の猫や感染症との接点を減らす
  • 体調の変化に気づいたらすぐにかかりつけの動物病院を受診する
  • 陽性猫との多頭飼育の場合は、陰性の猫にワクチン予防をする
  • 定期的な健診でエイズ関連症の早期発見・早期治療へつなげる

まとめ

この病気で何より気をつけたいのは、免疫低下による日和見感染です。
快適な生活環境を整えてストレスのない毎日を過ごして、愛猫の免疫力を高く保ちましょう。
発症を遅らせてこの病気と長くつき合っていくつもりで、たっぷり愛情を注いであげください。

※2:参考文献:https://jabfid.jp/disease/Pages/infection_fiv