ペットフード安全法とは
近年、ワンちゃんもネコちゃんも家族の一員として飼われ、
そのほとんどのご家庭が市販のペットフードを与えているかと思います。
この毎日食べてもらうペットフードの安全性を守るために、
「ペットフード安全法」という法律があることをご存じですか?
この法律によって、どのようにペットの食事の安全性が保たれているのかご紹介しましょう。
監修迫田 順哉
(ユニ・チャーム株式会社)
ペットフードのエビデンス設計・栄養設計を行いながら、ペット栄養管理士資格の講師、日本ペット栄養学会編集委員、管理士認定委員、ペットフード協会栄養基準研究会メンバーとして学術啓蒙活動に従事。2016年よりペット栄養学会誌にて論文を連載。ペットフードのリスク評価・管理を行いながら、ペットフード安全管理者資格の講師も務める。
迫田順哉. 2017. ペットフードの栄養設計や使用における安全. ペット栄養学会誌, 20: 156-162.
https://doi.org/10.11266/jpan.20.2_156
ペットフード安全法が制定された背景
家族の一員として犬や猫を飼う家庭が年々増加し、ペットフードに対する関心も高まりつつあった2007年、米国で化学物質メラミンが混入した原料を用いて製造されたペットフードにより、犬・猫の大規模な健康被害が発生しました。日本では、対象となっていたペットフードが並行輸入で流通していたことが明らかになりましたが、販売業者の自主回収により健康被害の発生は回避されました。しかし、国内で販売されるペットフードそのものを規制する法律がなかったことから、ペットフードの安全性に対する不安が大きく高まることになりました。それまで、国内には飼料の規格や基準を定めた法律はありましたが、対象となるのは家畜のみで、その目的は飼料が原因となり人の健康が損なわれる畜産物が生産される事を防ぐためであり、犬や猫の健康を確保するための法律ではありませんでした。そこで、環境省と農林水産省が共管のもと、ペットの生命の保護および健康被害の防止という動物愛護の観点から、2009年6月1日に「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」通称「ペットフード安全法」が施行されることになりました[1]。
ペットフード安全法の概要
ペットフード安全法の対象となるのは、犬と猫のペットフードです。
それでは、どのようなことが制定されているのか見てみましょう。
ペットフード安全法の概要(出典:環境省自然環境局総務課動物愛護管理室「ペットフード安全法のあらまし」)
1.目的
ペットフードの安全性の確保を図り、ペットの健康を保護し、動物の愛護に寄与する。
[第1条]
2.定義
ペットフードとは、犬猫の栄養に供することを目的として使用されるもの。事業者とは製造業者、輸入業者、販売業者をいう。
[第2条]
3.責務
事業者は、ペットフードの安全性の確保において最も重要な責任があり、安全性にかかる知識・技術の習得、原材料の安全性の確保、ペットの健康被害防止のために必要な措置(たとえば製品の回収など)の実施に努める。
[第3条]
国はペットフードの安全性に関する情報の収集・整理・分析・提供に努める。
[第4条]
4.基準・規格に合わないペットフードの製造などの禁止
国は安全なペットフードのための製造基準、表示基準、成分規格を設定できる。
[第5条]
いかなる人も基準・規格に合わないペットフードを製造・輸入・販売することはできない。
[第6条]
5.有害な物質を含むペットフードの製造などの禁止
ペットの健康被害を防止する必要が認められたとき、国は有害な物質を含むペットフードの製造・輸入・販売を禁止できる。
[第7条]
6.廃棄などの命令
ペットの健康被害を防止する必要が認められたとき、国は基準・規格に違反した、または有害な物質を含むペットフードの廃棄・回収などの措置を命じることができる。
[第8条]
7.事業者の届出
ペットフードの製造、または輸入を行う事業者は事前に届出をする。
[第9条]
8.帳簿の備え付け
ペットフードの取扱をする事業者は、輸入・製造・販売の記録を帳簿に記載する(小売を除く)。
[第10条]
9.報告の徴収・立入検査
国は法律の施行に必要な限度において、事業者に対し報告を求めたり、立ち入り検査を実施する。
[第11〜13条]
10.罰則規定
違反の内容により罰則が定められている(法人の場合1億円以上の罰金など)。
[第18〜23条]
このように、国と事業者がそれぞれの役割を果たしながら、ペットフードの安全を守る仕組みが定められました。そして内容に関しては、今後も科学的知見の収集・検討を加えて、結果に基づいて必要な見直しがなされていくものと思われます。
守らなければならない基準・規格とは
それでは、守らなければならない基準・規格にはどんなものがあるのか、基準・規格の中身について少し詳しく説明しましょう。
成分規格
ペットフードの水分含量は、ドライフードが10%程度、セミモイストフードやソフトドライフードが15~35%程度、ウェットフードが75%程度とさまざまですが、ペットフード安全法ではそれらを水分10%時に換算したときの値が規格で定めた量以下でなければならない成分があります。
添加物
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
解説 |
---|---|---|
エトキシキン BHA BHT |
150(合計量) 犬:75 |
合成酸化防止剤。近年ではミックストコフェロール(ビタミンE)やローズマリーなどの天然型の酸化防止剤の品質も向上し、昔に比べるとペットフード業界全体でその使用量や頻度は減少しているようです。 |
亜硝酸ナトリウム | 100 | 主に肉の赤味を出す発色剤で、食品ではハムやソーセージに使用されています。またワインなどでは酸化防止の目的で使用される事もあります。ペットフードにおいてもウェットフードやオヤツにおいて使用される事があります。 |
農薬
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
解説 |
---|---|---|
グリホサート | 15 | 直接ペットフードに混入されるものではなく、残留農薬の基準となります。 |
クロルピリホスメチル | 10 | |
ピリミホスメチル | 2 | |
マラチオン | 10 | |
メタミドホス | 0.2 |
汚染物質
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
解説 |
---|---|---|
アフラトキシンB1 | 0.02 | Aspergillus属のカビが産生するカビ毒で主にトウモロコシに発生します。 |
デオキシニバレノール | 犬:2 猫:1 |
Fusarium属のカビが産生するカビ毒で主に麦類に発生します。 |
カドミウム | 1 | 有害性重金属です。河川や海洋汚染、土壌汚染などが疑われる地域で生育した魚介類、作物、また汚染作物を摂取した畜肉などを避けるために設定されています。 |
鉛 | 3 | |
砒素 | 15 | |
BHC(αBHC+βBHC+γBHC+δBHC) | 0.01 | かつて、日本でも使用されていた有機塩素系殺虫剤で自然環境下では分解されにくく残存した原料が使用されないように規制値が設けられていると思われます。 |
DDT(DDD及びDDE含む) | 0.1 | |
アルドリン+ディルドリン | 0.01 | |
エンドリン | 0.01 | |
ヘプタクロル+ヘプタクロルエポキシド | 0.01 |
その他
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
解説 |
---|---|---|
メラミン | 2.5 | メラミンはペットフード安全法のきっかけにもなった物質です。タンパク質の量は分析する時にそのタンパク質に含まれる窒素を測定して算出されますが、メラミンは食器やスポンジなどに使用されている樹脂の原料であり、タンパク質ではありませんが、窒素を多く含んだ物質のためタンパク質として分析されます。このメラミンが意図的に混入された植物性タンパク質原料が流通し、海外で腎不全などの健康被害が発生した経緯があり、定められました。 |
添加物
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
エトキシキン BHA BHT |
150(合計量) 犬:75 |
解説 | |
合成酸化防止剤。近年ではミックストコフェロール(ビタミンE)やローズマリーなどの天然型の酸化防止剤の品質も向上し、昔に比べるとペットフード業界全体でその使用量や頻度は減少しているようです。 |
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
亜硝酸ナトリウム | 100 |
解説 | |
主に肉の赤味を出す発色剤で、食品ではハムやソーセージに使用されています。またワインなどでは酸化防止の目的で使用される事もあります。ペットフードにおいてもウェットフードやオヤツにおいて使用される事があります。 |
農薬
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
グリホサート | 15 |
クロルピリホスメチル | 10 |
ピリミホスメチル | 2 |
マラチオン | 10 |
メタミドホス | 0.2 |
解説 | |
直接ペットフードに混入されるものではなく、残留農薬の基準となります。 |
汚染物質
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
アフラトキシンB1 | 0.02 |
解説 | |
Aspergillus属のカビが産生するカビ毒で主にトウモロコシに発生します。 |
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
デオキシニバレノール | 犬:2 猫:1 |
解説 | |
Fusarium属のカビが産生するカビ毒で主に麦類に発生します。 |
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
カドミウム | 1 |
鉛 | 3 |
砒素 | 15 |
解説 | |
有害性重金属です。河川や海洋汚染、土壌汚染などが疑われる地域で生育した魚介類、作物、また汚染作物を摂取した畜肉などを避けるために設定されています。 |
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
BHC(αBHC+βBHC+γBHC+δBHC) | 0.01 |
DDT(DDD及びDDE含む) | 0.1 |
アルドリン+ディルドリン | 0.01 |
エンドリン | 0.01 |
ヘプタクロル+ヘプタクロルエポキシド | 0.01 |
解説 | |
かつて、日本でも使用されていた有機塩素系殺虫剤で自然環境下では分解されにくく残存した原料が使用されないように規制値が設けられていると思われます。 |
その他
物質 | 定める量 (μg/g)以下 |
---|---|
メラミン | 2.5 |
解説 | |
メラミンはペットフード安全法のきっかけにもなった物質です。タンパク質の量は分析する時にそのタンパク質に含まれる窒素を測定して算出されますが、メラミンは食器やスポンジなどに使用されている樹脂の原料であり、タンパク質ではありませんが、窒素を多く含んだ物質のためタンパク質として分析されます。このメラミンが意図的に混入された植物性タンパク質原料が流通し、海外で腎不全などの健康被害が発生した経緯があり、定められました。 |
製造方法の基準
ペットフードの製造には、以下の基準を満たす必要があります。
有害微生物の除去
“販売用ペットフードを加熱し、または乾燥するにあたっては、微生物を除去するのに十分な効力を有する方法で行わなければならない”
従来のエクストルーダーというペットフードを作る機械で100℃以上にて加熱処理、乾燥したペットフードであれば微生物は制御されていますが、ペットフードの加工調理方法が多様になってきていることもあり明文化されています。
指定添加物の使用禁止
“プロピレングリコールは猫用のペットフードには用いてはならない”
プロピレングリコールは犬用のセミモイストフード、ソフトドライフード、一部のトリーツに使われる保湿剤です。制菌作用を持ち、粒をしっとりさせるために使われますが、猫では約0.5%程度で溶血性貧血が見られるため使用が禁止されています。
有害物質の使用禁止
“有害な物質を含み、若しくは病原微生物により汚染され、またはこれらの疑いがある原材料を用いてはならない”
メラミンのように故意的に有害物質が混入されたような事例もあることから、有害な物質という言葉を用いて規制しているものと思われます。また病原微生物は近年、海外では注目されていますが冷凍や生タイプのペットフードも現れ実際に食中毒菌汚染によるリコールが発生しています[2]。こういった事を防ぐために、微生物の検査なども実施されています。
表示の基準
ペットフードのパッケージには、ペットフードの名称(犬用または猫用)、原材料名、賞味期限、事業者の氏名または名称及び住所、原産国名の記載が義務付けられています。
【表示A】ペットフード安全法に基づく表示
①名称
②原材料名
③原産国名
④事業者名・住所
⑤賞味期限
【表示B】ペットフード安全法以外の表示
「ペットフードの表示に関する公正競争規約」による、用途、与え方、内容量、成分の項目を表示。
安心で安全なものを
食べてもらうために
ペットフードの製造・販売に関わる方たちは、ペットフード安全法以外にもさまざまな法律が関係しており、それらをすべて守らなければなりません。フードづくりの規制があることによって、飼い主さんが安心できるフードの安全が守られています。
また実際の開発現場では、まだ法律が定められていない事案なども検討しながら研究・開発が続けられています[2]。
【参考文献】
- [1]ペットフード安全法研究会. 2009. ペットフード安全法の解説. 大成出版社. 東京.
- [2]迫田順哉. 2017. ペットフードの栄養設計や使用における安全. ペット栄養学会誌, 20: 156-162.
https://doi.org/10.11266/jpan.20.2_156