子犬が甘咬みをする理由と
咬みの原因を減らす方法
コロナ禍で在宅する時間が多くなり「この機会に念願の子犬を迎えた!」という家庭が増えました。
しかし、外出自粛で社会化不足とともに「甘咬みがひどくて困っている」という声が出てきています。
なぜ子犬は甘咬みをするのでしょう?その理由や、咬みをひどくする原因を知って、対策につなげましょう。
監修の先生村田 香織 獣医師(もみの木動物病院)
兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。
著書に『こころのワクチン』『困った行動がなくなる犬のこころの処方箋』など。
ライター:山ノ上 ゆき子
子犬が甘咬みをする理由 本気咬みとの違いはココ!!
子犬が甘咬みをするのは、当たり前のことで、ごく普通の自然な行動です。子犬が甘咬みをする理由には以下のようなものがあります。
子犬が甘咬みをする理由
- 遊び
- 咬み加減を学ぶ
- 仲間とのコミュニケーション
子犬は犬同士はもちろん人間に対しても甘咬みをして、遊びに誘います。特に犬同士の遊びを通じて咬む強さなどを学んでいきます。そのため、子犬の頃の犬同士の甘咬み行動は、両者が楽しんでやっているようであればやめさせる必要はありません。ただし、人間に対する甘咬みは、人への咬みを自制することを教えるためにも適切な対応が必要です。
対して、本気咬みをする理由には以下のような要因があります。
子犬が本気咬みをする理由
- 怒り
- 恐れ
- 守り
- 不満
- 興奮
本気咬みはこれらの感情が引き金になる攻撃行動になります。楽しい遊びなどが要因となる甘咬みとは理由が異なりますが、人への甘咬みを容認していると、本気咬みする傾向も高まります。飼い主さんを咬むクセがついてしまうと安心して一緒に暮らすことができなくなり、飼育放棄のきっかけにつながる可能性も考えられるため、子犬のうちからきちんと咬みの抑制ができる犬に育てましょう。
咬む犬に育ってしまう
甘咬みの放置と飼い主のNG行動
犬は本来、子犬同士の遊びの中で甘咬みをしながら、咬みつきの強さの加減などを学習して、咬みの抑制を身につけます。近くに遊ばせる子犬がいる場合は、甘咬みし合うような遊びの時間を設けましょう。近くにいない場合は、パピークラスや犬の幼稚園や保育園といった、他の犬と遊ばせることができる場を利用するのもおすすめです。特に今は、コロナ禍で犬は社会化不足になりがちなので、毎日お散歩に連れ出すことはもちろん、家庭でたっぷりと飼い主さんが遊んであげましょう。ただし、子犬は飼い主さんが知らず知らずのうちにやっている間違った遊び方によって、咬む犬に育ててしまうことがあるので注意が必要です。
やってはいけない飼い主のNG行動
- ①飼い主の手に子犬をじゃれつかせて遊ぶ
- ②甘咬みをしてきても遊びを続ける
- ③子犬がじゃれて手足に咬みついたときに「キャー」と騒いだり、逃げたりする
- ④洋服の裾を咬んできて、引っ張り合いになる
- ⑤咬んできたときに子犬を振り払う
- ⑥咬んだときに口を掴んだり口の中に指を突っ込む
- ⑦咬んできた子犬を叩く、蹴る
上記のような行動に心当たりのある人は、すぐにやめましょう。
- 【①②】
- 咬むことは楽しいことだと子犬に思わせてしまいます。続けるうちにどんどん甘咬みが増え、興奮した時にガブっと痛みを感じる咬みに発展します。
- 【③④⑤】
- 子犬の捕食本能を刺激して、興奮する可能性があります。
- 【⑥⑦】
- 子犬の捕食本能を刺激して、興奮する可能性があります。
子犬の甘咬みがひどい場合は、このような行動をしている家族がいないかまず見直して、やめることが重要です。
モノへの噛みは、
噛んででいいものを与えて予防
タオルやスリッパなどの無生物を噛むことは犬や人に対する甘咬みとは根本的に違うものです。さまざまなモノを噛むのは、正常な探索行動です。子犬は、新しいモノをみつけると、近づき、匂いを嗅ぎ、なめて、口に入れたりして確認します。これは、子犬の成長に必要なことで、ほとんどの子犬は、さまざまなモノを口に入れても、食べられないものは吐き出すので、無害なものであれば見守ることも大切です。
ただし、無理に取り上げようとすると、面白がって逃げたり、飲み込んでしまう場合があります。薬や殺虫剤、電気コード、飲み込むと消化管を詰まらせるようなモノ、破壊されると困るモノには注意して、事前に子犬の口が届かない場所に管理しておきましょう。
また、家具の脚などには、苦い味の犬用の噛み防止スプレーなどをしておく方法もあります。大切なのは、予防するだけでなく子犬の探索欲求を満たす素材の異なるおもちゃや、噛む欲求を満たすおもちゃを与えること。なんでも嚙みたがる子犬の時期に、犬用のガムなどを毎日与えるのもおすすめです。子犬の時期からデンタルガムを噛む習慣を作っておくと、破壊行動の予防に加え、歯石予防にもなりますよ。
子犬と格闘していませんか?
和犬に多い本気咬みへの警告
やってはいけない飼い主さんのNG行動には、もうひとつ「子犬との格闘」があります。足ふきやブラッシングなどのケアを無理にやろうとして、犬が暴れて格闘しているようになる状態です。格闘があると、犬の警戒や防衛本能を刺激して、本気咬み予備軍を生むことになります。すでにリードをつけようと首輪に触れただけで、空咬みされた。ブラッシングをしようとしたら「ウーッ」と唸られた。食べているフードの器を動かそうと手を伸ばしたら、吠えられた。そんな経験がある飼い主さんは、気をつけてください。特に柴犬などの和犬は、警戒心が強い場合が多いので、子犬のうちに人の手が近づくことや身体を触られることが、うれしくなる工夫をしておかないと、咬み犬になりやすい傾向があります。
そこで、おすすめなのがハンドフィーディングです。
ハンドフィーディングとは手からの給餌のことで、犬に必要なケアはもちろん、首輪をつける時にも、フードに集中させることでスムーズに行えます。また、犬が落ち着いているときに、ハンドフィーディングを行いながら、優しくなで、身体を触る練習を行いましょう。詳しいやり方は、「パピークラスに潜入!Vol.2 ~ケアを嫌がらない子に育てるには~」記事を参照してください。さらにハンドフィーディングを続けることによって、人間の手はおいしいものが出てくるうれしい存在で、嫌なことをされないと子犬に信頼されるようになれば、防衛本能からの咬み行動が予防できます。
子犬のうちに教えたい
遊びながらの甘咬み抑制
人間の手で遊ばず、ハンドフィーディングや優しくなでることを続け、子犬のうちに人間の手は「おもちゃじゃない」「食べ物を与えてくれる」「気持ちよくなでてくれる」ということを教えましょう。その上で子犬自身が「人の手は、咬んではいけない」と気をつける甘咬みの抑制トレーニングをしてください。永久歯が生えて顎がしっかりしてくると咬んだ時の破壊力が倍増するので、できれば生後4~5か月齢までの子犬が乳歯のころにやっておきましょう。もちろん、永久歯になってからも、甘咬みの抑制を教えることはできますが、甘咬みが出やすい子犬の早いうちから、遊びを通じて実施するのがおすすめです。
教える方法は、おもちゃで遊びながら子犬が手を甘咬みした瞬間に「あっ」と声を出して、子犬から離れます。これにより、子犬はなぜ楽しい遊びが中断したのか考えるようになり、繰り返すうちに甘咬みがきっかけだと気がつき、人の手を咬まないように気をつけるようになります。この甘咬みの抑制を教える遊びのことを「カムアットレーニング」と名付けました。
詳しい教え方は、次の記事で紹介します。