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人の手を咬まない犬に育てる
子犬の甘咬み抑制と咬みグセ予防

「甘咬みは、楽しい気持ちでやっていることだから、やめさせなくていい」という意見もありますが、
犬は情動的になったときに過去にやりなれた行動が出現しやすくなります。
甘咬みだからといって放置していると、興奮した時や追い詰められた時に本気咬みしやすくなるので、
予防するトレーニングをしっかりとやっておきましょう。

監修の先生村田 香織 獣医師(もみの木動物病院)

兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。
著書に『こころのワクチン』『困った行動がなくなる犬のこころの処方箋』など。

ライター:山ノ上 ゆき子

INDEX

ちゃんと満たしていますか?
「散歩」や「遊び」子犬の欲求

犬が本気で攻撃すれば、犬の歯は私たち人間の皮膚を破き、骨をかみ砕く威力のある武器になります。特に顎の発達した後の咬みつきは、小型犬であっても大怪我につながるため、その歯が武器なにならいように育てなくてはなりません。飼い主さんへの攻撃行動は、致死的な病気のようなもので絶対に予防が必要です。予防には、人に対する咬みつきを抑制するトレーニングが有効なのですが、犬のニーズを満たしていないとトレーニングをしても効果が出にくくなるので、まずは生活全体を見直すことから始めてください。

犬のニーズとは

  • バランスのとれた食事
  • 散歩などの適度な運動
  • 安心して眠れる場所
  • 本能を満足させる遊び
  • 飼い主や他の犬とのふれあいなどの社会的刺激

特に飼い主さんとのふれあいが不十分の子犬や、エネルギーが発散できていな子犬は、甘咬みの問題の重症化する傾向があるので注意が必要です。有り余るエネルギーは、本能を満足させる遊びなどでしっかり発散させることで、子犬が飼い主さんに咬みついてくる頻度を減らすことができます。

遊びながらできる甘咬み抑制
「カムアットレーニング」にトライ!

子犬にとって遊びはこころの栄養です。遊ぶことは、エネルギーの発散や破壊行動の防止になるだけでなく、犬は楽しく遊んでくれる飼い主さんを大好きになり、信頼関係を築く上でも有益です。子犬はとにかく遊び好きで、遊びを通じてルールを覚えます。そこで甘咬みはルール違反で、違反すると遊びが中断するペナルティがあると教えるのが「カムアットレーニング」です。

【カムアットレーニング】のやり方

  • ① ロープなどの長さのあるひっぱりっこのできるおもちゃを用意して、「おすわり」や「ふせ」などの合図を出して、従ったらおもちゃを床に這わせて動かして遊びはじめます。まずは子犬のエネルギーを十分発散させ、ひっぱりっこ遊びを大好きにさせましょう。
  • ② ひっぱりっこ遊びの最中に間違ってでも子犬が人の手を咬んだら「あっ」と言って、すぐに遊びを中断して子犬を置いておもちゃを持って部屋から出て行きます。出て行く時間は子犬が楽しい遊びが中断されたと感じれば良いので10秒~30秒ぐらいで十分です。これを何度も繰り返します。
  • ③ 人を咬むと楽しい遊びが中断するペナルティがあることを学習すると、子犬は人を咬まないように注意しながら遊ぶようになります。そうなったら次はひっぱりっこ遊びの最中に子犬の身体に触れてみましょう。わざと子犬が咬みそうな状況を作り、子犬が咬んできたら「あっ」と言ってすぐに遊びを中断し、おもちゃを持って部屋から出て行きます。時間は10秒~30秒で十分ですが、毎回すぐに戻ってくるわけではないことも教えるため少し長い時があってもOKです。
  • ④ 【②】〜【③】を繰り返すうちに子犬は飼い主の手を咬まないように細心の注意を払うようになります。子犬が自ら飼い主の手を咬む事がなくなったら、今度はおもちゃなしで子犬を撫でてみましょう。子犬が咬みを自制できているかを確認するため、前記事の「やってはいけない飼い主のNG行動」にあった、飼い主の手に子犬をじゃれつかせる遊びを誘ってみます。この場合も子犬が我慢しきれずに咬んできたら「あっ」と言って部屋から出て行き、飼い主さんを咬んだらしばらく相手にしてもらえないことも教えましょう。

家族それぞれでルールが違う…
うまくいかない原因はココ!

犬種差や個体差がありますが、概ね1回につき10分間以上のカムアットレーニングを毎日2回程度行えば、子犬は1週間のうちに急速に咬まなくなります。ただし咬むと「飼い主の反応が楽しい」「自分の希望が叶う」といった経験がすでにある場合は、時間がかかります。ただし咬むと「飼い主の反応が楽しい」「自分の希望が叶う」といった経験がすでにある場合は、時間がかかります。カムアットレーニングを1~2回やったからといって、子犬から見たら飼い主さんがなぜ中断したのかわかりません。集中的に繰り返し行って、「咬むこと」のメリットがないことを根気よく教えましましょう。

また、上手くいかない場合は、何か原因があります。咬まれても「あっ」と言わずそのまま遊びを続ける人がいるなど、家族によってルールが違っていると犬はなかなか覚えません。また、ひっぱりっこ遊びに乗って来ない場合は、使うおもちゃを工夫しましょう。子犬が普段から好んで噛んでいるおもちゃにロープをつけて、飼い主さん自身が大げさに楽しげな高めの声を出し、おもちゃを目の前でゆらしたり、地面を転がしたりして捕食本能を刺激してみましょう。ひっぱりっこが十分好きになる前に「あっ」と言って中断する事を繰り返すと、ひっぱりっこの遊びそのものが楽しくないと思うこともあるので、まずはルールにとらわれず楽しく遊ぶことを重視してください。さらに、飼い主さんが出て行ったあとにおもちゃが落ちていたり、他に遊んでくれる人がいたりすると効果が出にくくなります。できるだけトレーニングは、シンプルで何もない部屋や廊下などで行いましょう。

なでようとする手を咬む
足や洋服の裾を咬む

咬まない犬に育てるには、カムアットレーニングの時はもちろん、普段の生活の時か工夫が必要です。手や足だけでなく着ている服に咬みついた場合も、同じような対処をして、咬むとベナルティがあることを教えましょう。下記にありがちな咬みつきパターンへの対処例をあげましたので、参考にしてください。

ありがちな咬みつきパターンへの対処例

ありがちなパターン 対処例
ひっぱりっこ遊びですぐに手に咬みつく内容 ぬいぐるみなどのおもちゃに紐をつけるなどして、子犬から距離を保って持てる長いおもちゃを使いましょう。
「あっ」と言って離れようとすると、追いかけてきて咬む 追いかけられないように、子犬にリードをつけて、室内の安全な場所つないで遊ぶようにしましょう。
「あっ」の声で犬が興奮して格闘 高い声で発している場合は、低い声で発して、一瞬フリーズしてみましょう。その時犬の動きが止まったら出ていきます。
カムアットレーニング以外の時に咬む このトレーニングは、「飼い主を咬む=飼い主がいなくなるペナルティがある」という関連付けをするために行うものです。日常生活の中でも咬んで来た時にも必ず「あっ」と言って出て行きましょう。
しつこく咬んでくる 子犬のエネルギー発散が不十分である可能性と、咬みたいという強い欲求があるのかもしれません。また出て行くタイミングが遅く、飼い主のリアクションで楽しいゲームになっている場合もあるので、咬んだ瞬間に「あっ」と言いすぐに淡々とその場からいなくなってください。
なでようとする手に咬みつく 子犬が活発な時は、必ずおもちゃを持って近づくようにして、カムアットレーニングで遊びましょう。なでるのは、たっぷりと遊んだ後の子犬が疲れた状態の時を見計らって、優しくゆっくりと行いましょう。
足や洋服の裾を咬む かまってほしいと思っているときはもちろん、犬は裾などが揺れるのが獲物のように見えて、咬みつく場合もあります。犬が走ってきたら立ち止まり、ゆっくりと移動してください。それでも、追いかけてくるようなら、おもちゃやフードを反対側に投げて気をそらせてみましょう。
散歩中に足やリードを咬む 散歩中に足やリードにじゃれつく場合は、ひも付きのボールなどの噛んでいいおもちゃを持ち歩き、足やリードではなく、おもちゃに犬の気持ちが向くように動かしましょう。

成長してからだって
トレーニングは有効

すでに子犬の時期が過ぎていても、根気よく教えれば咬みグセは予防できます。犬はカムアットレーニングを通じて「あっ」という言葉をペナルティと関連づけして学習します。楽しい遊びや食べものを与えるときなど、常に人を咬んだら「あっ」と言って、ペナルティとして中断するルールを家族で守れば、犬はどんな時も咬まないように気をつけるようになるでしょう。そうなれば、「あっ」の言葉は、いたずらなどのやめてほしい行動のときにも、発することで効果的に止めることができるようになります。

ただし、「あっ」と言って中断するのは、犬にとって楽しいことに限ります。苦手なことを避けようする咬みの場合は、中断して飼い主さんが立ち去ると「咬むと嫌なことがなくなる」と学習して、咬みつきが増える可能性があり逆効果です。ブラッシングなどを犬が嫌がる場合は、前の記事の「ハンドフィーデング」を参考に、嫌がらずできる工夫をすることが先決になります。また、過去に体罰などの怖い経験をした犬の場合は、防衛心から咬むことがあります。それで飼い主さんが身を引くと、咬むと自分の身が守れると思い、怖いと思った時に咬む可能性があります。この場合は、まず犬に信頼されるような優しい接し方を徹底してください。子犬の頃から体罰などの怖い思いを絶対させないように気をつけて、楽しく遊びながら咬みグセを予防しましょう。