老犬がごはんを食べない理由
老犬の食欲不振<前編>
食欲は健康のバロメーターです。「ごはんを食べない」という食欲の変化は、
食べ物の好き嫌いの可能性がある一方、命に関わる病気のサインでもあります。
前編では食欲不振の理由や、動物病院を受診するタイミングを紹介しましょう。
お話を伺った先生鈴木 玲子 獣医師(WANCOTT/ベル動物病院院長)
麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、20年にわたり動物病院に勤務。現在は東洋医学を中心とした治療を行う往診専門のベル動物病院院長。往診エリアは東京都・神奈川県・愛知県名古屋市。「WANCOTT」では老犬ケア・ドッグホテル利用の犬を中心に、診察・治療・健康管理、医療セミナーを担当する
お話を伺った先生北島 愛 動物看護師(WANCOTT)
大学で動物衛生学を学び、卒業後は動物看護師として神奈川県川崎市内の動物病院に勤務。2017年4月に「WANCOTT」のマネージャーに就任。医療やトレーニングのスタッフと連携しながら、パピーからシニアまで、体のケアから心のケアまで行う。
ライター:金子志緒
食欲が落ちる老犬ならではの
5つの理由
愛犬がもしも急にごはんを残すようになったら、飼い主さんなら心配になりますよね。介護・老犬ケアを行う犬の複合施設「WANCOTT」では、飼い主さんから食欲不振に関する相談がたくさん寄せられているそうです。まずはかかりつけの動物病院での診察をすすめると、約3分の1の犬に、病気を含む大きな異常が見つかるとか。老犬ならではの食欲不振の理由を知っておきましょう。
老齢期に多い食欲不振の原因として考えられること
- シニア期に増える病気
腎臓疾患や心臓疾患など、シニア期に増える病気によって食欲不振が起こる。 - 首や足腰の筋力の低下
加齢によって首や足腰の筋力が低下して立った姿勢を維持しにくくなる。食べるときの姿勢がつらくなり、食欲があっても食べる量が減ってしまう。 - 口まわりのトラブル
あごの筋力の低下で食べづらくなるほか、歯が弱ったりする口内のトラブルも原因になる。 - 感覚器の老化
視覚や嗅覚が衰えて食べ物を認識しづらくなる。食事があるところへたどり着くのが難しくなることも少なくない。 - 環境の影響
高齢になると気圧の変化にも影響を受けやすく、台風のときなど一時的にお腹の具合が悪くなる場合もある。
老犬の食欲不振を引き起こす10の病気
高齢になるほど食欲不振を引き起こす病気にかかりやすくなります。ここでは食欲の低下に加えて、主な症状も紹介します。
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- 1. 腎臓の病気
- 加齢などが原因で腎臓の機能が低下して、体外に老廃物を排出できなくなる。老犬は慢性腎臓病が多い。体重の減少、飲水量・尿量の増加、排泄の失敗の増加が起きる。
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- 2. 口腔内の病気
- 主に歯周病によって痛みが起きてしまう。口臭の悪化や唾液の増加に加え、歯石の付着や歯ぐきの腫れが見られるように。口を気にするしぐさが見られる。
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- 3. 目の病気
- 代表的な病気は老齢性白内障。視力低下が悪化して食事を探せなくなる。緑内障になると痛みも生じる。
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- 4. 内分泌の病気
- さまざまなホルモンの産生が過剰になったり減少したりする。多い病気は甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、膵炎など。毛並みが悪くなる、太ってくる、腹部だけ張る、元気がない。
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- 5. 心臓の病気
- 老齢の小型犬の心臓疾患の大半は僧帽弁閉鎖不全症といわれている。左心房と左心室の間でドアの役割をする弁が変性し、血液が逆流してしまう。疲れやすい、咳をする、呼吸数が増えるなどの症状が現れる。
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- 6. 運動器の病気
- 椎間板ヘルニア、関節炎(関節の軟骨がすり減って炎症を起こす)などで、姿勢が維持しづらくなる。痛みで運動量が減る、寝起きにすぐ立ち上がれないといった変化がある。動かないので空腹も感じにくくなる。
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- 7. 脳の病気
- 認知症によって食欲が変化する(食欲が増進することもある)。脳の病気によって感覚器の機能が低下し、食べ物を認識しづらくなる。
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- 8. 腫瘍
- 老犬は代謝や免疫が低下するので腫瘍が発生しやすい。体表にしこりができる、下顎、脇、膝の裏などのリンパ節が腫れる、臓器の機能が低下する。下痢や嘔吐などの治りにくい消化器症状の背景には腫瘍があることも。
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- 9. 心因性
- 環境の変化に敏感になり、室温や外気温、散歩中の小さな変化などにストレスを感じて、食欲や嗜好性に影響を受ける。梅雨や台風の時期には気圧でてんかん発作を起こしやすくなる。
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- 10. 医原性
- 抗がん剤や抗炎症剤など飲んでいる薬で胃が荒れてしまうこともある。
どのくらい食欲がないのか
食べ物のランク付けで
食欲を調べる方法
愛犬が若いころ、元気なころに好きな食べ物のランク付けをしておくと、食欲のバロメーターを判断するてがかりになります。たとえば「フードを食べないけどおやつなら食べる」場合、体調の悪化よりも嗜好性の問題の可能性が高くなりますよね。真の食欲がわかれば診察の参考になり、治療にも役立ちます。
ランク付けの例
- 1位(目をキラキラさせて必ず食べる):チーズ
- 2位(喜んで食べる):茹でた鶏レバー
- 3位(出されたら食べる):鹿肉のジャーキー
- 4位(渋々食べる):ミルク風味のボーロ
- 5位(おなかが空いていると食べる):主食のドライフード
食欲不振に加えて、
もう一つ変化があったら
早めに受診を
食欲不振に加えて以下の変化も見られる場合は、その日のうちに動物病院を受診しましょう。具体的な変化がわからなくても、飼い主さんが「なんとなくいつもと違う」と感じたときは一刻を争う可能性もあります。
獣医師は犬が来院したときの状態しか見られないので、日常の些細な変化に気づくことができません。「いつもと違う」は病気の早期発見の鍵。飼い主さんが最も敏感に判断できることで、普段からの観察と気づきが大切です。
食欲不振+以下の変化は動物病院へ
- 元気がない
- 散歩に行きたがらない
- 寝るときの姿勢が変わった
- 水を飲む量が変わった(増えた・減った)
- おしっこの量が変わった(増えた・減った)
- うんちが下痢の状態
- 吐き気や嘔吐がある
- なんとなくどこかおかしい
老犬の食欲低下にはさまざまな理由があり、複数の病気が潜んでいることも少なくありません。動物病院で必要な治療を受けてから食欲を取り戻すことを考えます。さまざまな病気を鑑別診断してくなかで、シニアならではの嗜好性の変化や食べづらさの原因が見えてくることも。後編では食事の工夫を紹介しましょう。