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家庭で実践できる食べない老犬の食事の工夫
老犬の食欲不振<後編>

若いころは食いしん坊な犬でも、高齢になると老化や病気で食欲が落ちてしまいます。
愛犬が再び食事を楽しめるように、おいしさや食べやすさを考えましょう。
前編に続き、後編では食事の工夫や食欲のない犬に薬を飲ませるコツを解説します。

お話を伺った先生鈴木 玲子 獣医師(WANCOTT/ベル動物病院院長)

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、20年にわたり動物病院に勤務。現在は東洋医学を中心とした治療を行う往診専門のベル動物病院院長。往診エリアは東京都・神奈川県・愛知県名古屋市。「WANCOTT」では老犬ケア・ドッグホテル利用の犬を中心に、診察・治療・健康管理、医療セミナーを担当する

お話を伺った先生北島 愛 動物看護師(WANCOTT)

大学で動物衛生学を学び、卒業後は動物看護師として神奈川県川崎市内の動物病院に勤務。2017年4月に「WANCOTT」のマネージャーに就任。医療やトレーニングのスタッフと連携しながら、パピーからシニアまで、体のケアから心のケアまで行う。

ライター:金子志緒

INDEX

食欲が落ちたときには
ごはんの「おいしさ」をアップ

前編でお伝えしたとおり、老犬は病気や嗜好性の問題で食欲が低下しがちです。「なんとかして食べさせなければ」と食事のことで頭がいっぱいになってしまう飼い主さんも少なくありません。愛犬がごはんをおいしく食べられる工夫で食事の時間を一緒に楽しみましょう。

  • ドライフードをふやかすだけでも風味が出ます
    約7割の犬がドライフードを食べていることもあり、「主食のフードを食べなくなった」という相談が最も多いですね。お湯でふやかすだけでも、犬の嗅覚を刺激するにおいが出ます。口まわりのトラブルや口腔内の病気などで固形物を食べたがらない犬も、やわらかくなるので食べてくれることも。飲水量を増やして脱水を予防できるメリットもあります。
  • だし汁や市販のスープでにおいを増やしましょう
    市販の犬用スープや鶏肉のだし汁をドライフードにかけて与えると、においで食欲をそそるごはんに変わります。食べ終えるまで見届けたあとは、食べ残しがあっても食器は片付けてしまいましょう。
  • ランク上位の食べ物をトッピング
    前編でお伝えした食べ物のランク付けをもとに、主食のフードより上位のおやつを少しだけトッピングしてみましょう。犬によってトッピングの加え方にも好みがあるので、フードの上にのせたり全体に混ぜたりして食欲の変化からベストの方法を探ってみてくださいね。
  • 飲み込みづらいときは食べやすい流動食に変更
    15歳をすぎたハイシニア(超高齢)になると、あごの筋力が低下して口を動かしづらくなります。ドライやウェットフードを飲み込みづらくなってきたら、流動食に変えてみましょう。ドライフードをミルサーで粉にしてからお湯を足したり、ウェットフードとお湯をミキサーで混ぜたりして作れます(茶こしでこすとより滑らかになります)。お湯を加えすぎると流動食のかさが増えてしまうので、水分量に注意して調整しましょう。

心身への刺激でおなかを空かせる

適度な運動で胃腸の動きが活発になり、おなかが空きやすくなります。介助用ハーネスをつけてゆっくり歩くだけでも食欲が戻ることも少なくありません。無理なく体を動かす習慣をつけましょう。歩行が難しい場合は、バギーに乗せて出かけるだけでも環境の変化を感じて気分転換になります。

老犬は食に対する興味が湧かなくなることもあります。食べ物を入れて遊びながら食べる「知育トイ」や、嗅覚で食べ物を探す「ノーズワークマット」を取り入れて、食べることへの意欲をもたせる方法もあります。フードを転がしたりタオルの下に隠したりするだけでも関心を示すことも。

その他、食器の形を変える、食器台で食べやすい高さに調節する、介護用食器を使う……といったひと工夫も有効です。車椅子を使って立たせると食欲が湧くケースもありました。愛犬の状態に合わせていろいろなアイデアを考えてみてくださいね。

食べ物に薬を混ぜて与えるときの注意

老犬は病気の治療のため、長期的な投薬が必要になるケースが大半です。動物病院で処方された薬をごはんに混ぜて与えてていませんか? ごはんに薬(犬にとって異物)が混ざっていると食事に嫌な印象をもってしまい、食欲不振に拍車をかけることも珍しくありません。おやつで包んでも薬だけ出してしまう犬もいます。特に苦味が強い薬はなおさらです。

動物病院で薬を処方されたときは獣医師に味を聞いておきましょう。たとえば苦味が強い薬は、投薬用トリーツで包んだり、錠剤なら砕いてカプセルに入れたりしたほうが嫌な印象を減らせます。水に溶いて与える場合は砂糖水を選び、飲み切れるように1〜2cc程度の量にするのもポイント。甘味がある薬は犬がすんなりと飲んでくれることが多いものの、錠剤を割ると中の苦味を感じやすくなるので、飲ませる工夫が必要になります。

食べ物にいきなり薬を混ぜると、「おいしいものの中には異物がある」と憶えて口にしてくれなくなります。おすすめの飲ませ方は、【最初に薬なしのおやつ】→【次に薬入りのおやつ】→【最後に薬なしのおやつ】という順番です。最初と最後のおやつを良い印象にすることが重要です。薬を混ぜる食べ物は、ランク付けの中で低いものから始め、とっておきの大好物は最後の手段として確保しておくこと。病気の中には、療法食の指導を受けていたり、食べる食材の制限が必要な場合もあります。かかりつけの獣医さんに相談しながら、愛犬が食を楽しめるような作戦を練っておきましょう。

若いころから
身につけておきたい
食習慣

高齢になると総合栄養食から食事療法食に変えることも必要になります。「口の社会化」として早いうちにいろいろなにおい、味、食感の食べ物に慣れる練習をしておきましょう。ドライやウェットフード、トッピングのごはん、硬さや形状の違うおやつ、茹でた野菜をときどき与えるだけでも十分です。
もしもに備え、薬を飲ませる方法を増やすために、遊び感覚で犬の口に薬を入れる練習をしておくのも一案です。老犬になって食欲が落ちてしまったときも、ごはんやおやつに頼らず薬を飲ませられます。ただし飼い主さんが「やらなきゃ!」と意気込むと犬がプレッシャーを感じてしまいます。あくまでも遊びの一環として行いましょう。

老犬の食欲不振は多くの飼い主さんが直面する悩みです。シニアライフを楽しみたいのに悩みが増えては本末転倒。おいしさをアップするひと工夫や薬の飲ませ方のコツを生かして、食の楽しみを取り戻してあげてくださいね。