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猫の認知症や問題行動を
予防・改善する食事と遊び

前編でお伝えした「老猫の夜鳴きが続く…もしかして猫の認知症?」に続いて、
認知症のような症状や、困った行動を予防する生活習慣を紹介します。
家族を悩ませた夜鳴きが改善した17歳の猫のケーススタディから学びましょう。

監修の先生村田 香織 獣医師(もみの木動物病院)

兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。
著書に『こころのワクチン』『パピークラス&こねこ塾スタートbook』など。

ライター:金子志緒

INDEX

猫の生活の質を良い状態に保つ

猫の認知症はまだ研究段階ですが、人の認知症で有効とされる生活習慣を取り入れることで予防したり進行を遅らせたりできる可能性があります。たとえば心身に良い刺激を与えられるように、日々の食事や遊びを工夫すること。猫のストレスを減らして生活の質を向上できるので、認知症予防だけでなく全身の健康を維持するために役立ちます。

猫は歳を重ねると習慣を変えたがらず、無駄なこともしなくなるため、できれば子猫のころから実践するのが理想です。すでに高齢で夜鳴きなどの症状が現れている場合、腎臓病や関節炎などの病気が関係していることが多いので、まずは動物病院に相談して検査や治療を行いましょう。

食事に捕食行動を取り入れて
本能を満たす

獲物を探して食べるまでの流れを体験させます

フードを食器に入れて置くだけでは、猫の本能や運動量を十分に満たせません。決まった時間に出されたフードを食べるだけでは、刺激のない退屈な生活になってしまいます。野生動物のように獲物を探して食べるまでの捕食行動を体験させましょう。

捕食行動の流れ

  • 獲物を探す→見つける→追う→捕まえる→食べる

    フードを与える時間をランダムにする、置き場所を変える、キャットタワーなどの高所に置く、思いがけないところに置く、フードを投げたり転がしたりして追わせる……など、捕食行動を模した食事の方法を取り入れるのがポイント。老猫には上り下りしやすいステップを使い、関節への負担を減らすことも大切。これらは「環境エンリッチメント(動物福祉に基づいた幸せな暮らしを実現する方法)」の一つで、動物園のライオンやトラにも行われています。
    レーザーポインターで遊ぶときも、最後にフードを置いた場所へ誘導すれば捕食行動を完結させられます。光を追いかけるだけで捕まえられずに終わるとフラストレーションが残るという説もあるので、ストレスを減らすためにも取り入れたい方法です。

  • 知育トイで食事の時間に頭と体を使う習慣を

    中にフードを入れられる構造のおもちゃが知育トイです。食べ物を得るために頭や体を使うので、退屈しのぎになります。猫は食べ物が見えるほうが集中するので、透明な素材や中身が見える容器を選びましょう。穴を開けたペットボトルやトイレットペーパーの芯などに、フードを入れるだけでも知育トイになります。最初は少し動かすだけですぐフードが出るようにしておき、猫が慣れてきたらフードの出口を小さくして難易度を上げるのがコツです。
    多くの動物には「コントラフリーローディング効果(努力して得られた食事を好む)」が見られますが、猫はそれが証明されていません。努力しないで食事を得ることが習慣になっていると、捕食行動や知育トイで食べ物を得る意欲をもつまでに時間がかかることも。最初は1日の食事の半分を食器で与え、残りを知育トイで与えることから始めましょう。

  • 穴を開けたペットボトルにフードを入れる
  • ティッシュボックスにフードを入れて隠す
  • 知育トイを使う
  • キャットタワーの段差に隠す など

遊ばなくなった猫に遊び方を教え直す

獲物に似ている形や自然素材のおもちゃを好みます

高齢になって遊ばなくなった猫には、興味を示すおもちゃを探すことから始めます。たとえば猫が好むネズミの形をしたおもちゃを選び、ネズミのように部屋の端や暗がりに沿って動かしたり急に止めたりして遊びに誘ってみましょう。猫が反応したらおやつを与えるなどして、根気よく教え直すことが大切です。
市販のおもちゃでは、先端に小動物の毛やカサカサと音がするビニールがついているねこじゃらしが人気です。また、自然の素材を選ぶのも一案。監修の村田香織先生の愛猫はおもちゃに反応しなくなった後も、エノコログサ(ネコジャラシ)では20歳になっても遊んでいたそうです。

野生のネコ科の活動時間と場所を再現

猫は夕暮れから明け方にかけて活動する薄明薄暮性の動物。薄暗いところで活動性が増すので、日中に遊びを教え直すとき、部屋を暗くしてみるのも良い方法。また、自然を感じられる窓やベランダに近い場所ではさらに気分が盛り上がります。

昼夜逆転を予防・改善する生活リズム

老猫の生活リズムが昼夜逆転してしまい、夜鳴きに悩まされる飼い主さんは少なくありません。生活リズムを戻すためには、日中にたくさん遊んで活動させると改善しやすくなります。忙しい時は、ひとり遊び用の羽が電動で動くおもちゃなどのおもちゃを活用しましょう。
日光を浴びるとセロトニンが分泌されて夜間の眠りが深くなるので、リードをつけてベランダに出したり日光浴させたりしましょう。外出がストレスにならなければ、ハードクレートに入れて散歩をするのも良い刺激になります。リラックスすると眠くなるので夜にブラッシングや、動物病院に相談してフェロモン剤を使う方法もあります。

おなかがいっぱいになると眠くなる習性を利用して、日中は食事の量を控え、夜間に多めに与えましょう。パターン化した日課を続ければそれが習慣になり、生活リズムも戻ります。

ケーススタディ
「17歳の猫の夜鳴き」

監修の村田先生が受けた相談の中から、夜鳴きが改善したケースを紹介しましょう。昼夜逆転して大声で夜鳴きをするので、飼い主さんが眠れなくなってしまった17歳の猫の例です。

身体検査と血液検査で身体上の問題がないことを確認した後、カウンセリングを行いました。夜鳴きが始まる少し前に同居猫が亡くなり、さらに一戸建てからマンションに引っ越していたことが判明。これらが大きなストレスになり、夜鳴きのきっかけになったことがうかがえます。夜鳴きを止めるのではなく、猫の本能を満たし、生活リズムを整える工夫を提案しました。

夜鳴きの改善の提案

  • 安全を確保したベランダで、1日3回10分程度遊ぶ
  • 窓辺のカーテンを開けて日向ぼっこ
  • 1日2回ブラッシング
  • 日中の食事を控えめにして、寝る前に多めに与える
  • 寝る前の食事は知育トイ(ペットボトルに穴を開けたおもちゃ)に入れ、猫用ケージの中で与える
  • 猫用ケージは家族の寝室から離れたところに設置する

加えておもちゃで遊んだり、猫用の草を用意したりしたところ、3週間後にはすっかり穏やかになり、深夜に飼い主さんを起こすこともなくなりました。

飼い主さんを困らせる夜鳴きなどの行動は、猫の病気やストレスがきっかけになります。問題の行動を止めるのではなく、猫の体調や習性を踏まえて対処しましょう。猫に寄り添う飼い主さんの思いやりが心身の健康の維持や認知症のような症状の予防になり、さらには生活の質の向上に役立ちます。