トイレの失敗やグルーミング不足など
行動に表れる猫の老化のサイン
今までなかったトイレの失敗や、あたり前にやっていた爪研ぎや毛づくろいなどの行動をサボっている…。
実はこれも、老化のサインです。シニアになると猫の暮らしもサポートが必要になってきます。
お話を伺った先生村田 香織 獣医師
(もみの木動物病院)
兵庫県神戸市にある「もみの木動物病院」の獣医師。犬や猫の攻撃行動、無駄吠え、不適切な排泄などといった問題行動の治療やしつけを専門に活躍中。飼い主とペットが楽しく幸せに暮らすための教育を、こころのワクチンとして執筆・講演活動を通じ多方面に取り組む。
著書に『こころのワクチン』『パピーケアスタッフBOOK』など。
愛猫の行動の変化をチェックしてみよう
最近、日常生活での行動が変わってきた。これって老化?
老化が進むと日常生活の中での行動に変化が出てきます。猫はもともと寝ている時間が長い上、不調があっても我慢して寝ている状態のことが多いので、病気になっても飼い主が気づきにくく、発見が遅れてしまいがちです。まずは、ちょっとした生活行動に変化がないか、下記のチェックリストを見て確認してみましょう。
生活行動の変化チェックリスト
- トイレの場所はわかっているはずなのに失敗、粗相が増えた
- 排泄に時間がかかるようになった
- 何度もトイレに行く姿をみる
- 水をあまり飲んでいない
- 爪研ぎの回数が減っている
- 毛づくろいの回数が減っている
- 少量でも食べるのに時間がかかるようになった
- 呼んでも反応しない
- 触るとビックリしたようなそぶりをする
- 大きな声を出したり、変な鳴き方をすることがある
猫はトイレを覚えるのも早く、粗相することが少ない動物ですが、高齢になると筋力や体力の低下で行動がスローになり、トイレに間に合わないことや、排泄のキレが悪くなり、トイレに時間がかかることもあります。毛づくろいの回数が減る、少量でも食べるのに時間がかかるようになるのも老化のサインですが、口内炎などの口の中のトラブルの可能性もあるので、合わせて確認しましょう。「呼んでも反応しない」「触るとビックリしたようなそぶりをする」「大きな声を出したり、変な鳴き方をすることがある」のは、認知機能や感覚器の機能低下があるのかもしれません。また声を出すのは、不調を訴えているのかもしれません。上記は老化のサインですが、すべて老化現象だからと思い込んでしまうと、今度は病気のサインを見落とすことになりかねません。老化を示すサインは、疾患との見極めが難しいので、日頃からよく観察し、異常があれば獣医師に相談するのが良いでしょう。
行動の変化は老化による病気の初期サイン
トイレの失敗は「病気?」それとも「老化?」
愛猫の行動を見ていて以前と違う異変を感じ、これは「病気?」それとも「老化?」と気になる飼い主さんも多いのではないでしょうか。猫はもともと泌尿器トラブルが多い動物です。膀胱炎、尿石症、腎不全などの病気にかかりやすく、老化が進むと腫瘍性疾患なども発症しやすくなるので注意が必要です。単なるトイレの粗相は老化のサインですが、匂いや色がおかしい、水をよく飲む、オシッコの回数が多い場合などは、病気による可能性があるので、早めに動物病院で診てもらうのが安心です。また、猫は喉の渇きに鈍感と言われており、高齢になると普段の居場所から離れた場所へわざわざ水を飲みに行かなくなることもあります。
水を飲む量が減ることで、泌尿器トラブルになることもあるのでトイレと水飲み場を見直してみましょう。できれば、トイレは数を増やして、もよおしたらすぐに入れるように配置します。足腰が弱ってきているのなら段差の低い、入りやすいトイレが良いでしょう。猫ちゃんによっては、汚れたトイレを避けるために、トイレ以外で排泄する場合もあります。常に清潔にしておくことも、粗相を減らすポイントになるでしょう。水も、常にキレイなものが飲めるように気をつけ、複数の場所に用意するのがオススメです。
家庭でできる
「聴力」「視力」の確認方法
「聴力」「視力」を家庭でも簡単に試す方法はありますか?
猫は明け方や夕暮れ時に活動がもっとも活発になる薄明薄暮性の動物で、暗い場所でも動ける感覚器を持っています。しかし、老化が進むと感覚器の機能低下があり、行動にも変化が現れます。呼んでも反応しない、おもちゃに気が付かないなど、「ちゃんと聞こえているのか」「ちゃんと見えているのか」不安を感じた時は、おうちでチェックテストをして確かめてみましょう。
耳のチェックテスト
愛猫の死角で大好きなオヤツの袋などを持ってガサガサ音を鳴らしたり、猫缶を開ける音を聞かせてみましょう。それに反応すれば聞こえています。全く反応しない場合は、聴覚障害の可能性があります。
眼のチェックテスト
お部屋の中で、猫が普段通る場所に箱などの障害物を置いてみます。
障害物を避けて移動できたら見えている状態です。障害物にぶつかるまで気が付かないようなら視力障害の可能性があります。
異常があればまず動物病院へ行き、獣医師に相談を。
「聞こえていない」「見えていない」とわかったら、状況に合わせてコミュニケーションの方法を工夫しましょう。例えば、聞こえていないのなら、見える場所に手を出して気づかせてあげる。見えていないのなら、音やオヤツの匂いなどで誘導して、ぶつからないように移動させるなどです。感覚器の機能低下は、猫ちゃん自身も不安があり、不安を伝えたくて声を出すこともありますので優しいサポートを心がけましょう。
飼い主さんのサポートで
老化の進行を予防しましょう!
高齢猫の生活をスムーズにするポイントは?
猫は、もともと上下運動をする動物で、段差も無理なく移動できるはずですが、関節機能や筋力が衰えると、今まで簡単にジャンプしていたところにジャンプできなくなり、足を滑らせることもあります。しかし猫は高いところに上がる習性があるので、それぞれの段差が低くなるよう段数を増やし、無理なく上がれるようにしましょう。ただし、部屋の大きな模様替えなどは、高齢の猫ちゃんが戸惑う原因になるので、トイレを増やす場合も、今までのものはそのまま移動せず使用できるようにしておき、粗相した場所などに増やす方がスムーズでしょう。
猫は、自分で自身の体を美しく保つよう被毛を舐めて整える「セルフグルーミング(毛づくろい)」を行います。その回数が減ってきているのなら、飼い主さんが行うブラッシングの回数を増やして、常に被毛を清潔に保ってあげましょう。また、爪研ぎの回数が減ってきているのなら、定期的に爪切りを。猫も高齢になると自分自身の面倒がみられなくなってきます。そんな時に支えになるのが飼い主さんのサポートです。猫も加齢に伴い不安が高まる傾向があります。飼い主のサポートで不安が和らぐこともあるので、工夫してみましょう。